『先ほど手渡した紙』というのは

<コンポジットレジンの歯髄為害性>について

10年以上前 A4の歯面にまとめたもので

その内容は以下の通りです

 

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<<コンポジットレジンの歯髄為害性について>>

コンポジットレジン(以下レジンと記す)というは

歯科で好んで使われる合成樹脂(プラスティック)材料です

1964年に登場し 操作性(使い勝手)がよく

審美(見てくれ)的にも評価を受けてきました

虫歯のちょっとした補修(治療)には

古くからアマルガムという

数%の水銀を含む銀と錫の合金が使われてきました

数%とは言えども水銀 を含むということで

(1968年に水俣病の原因が

メチル水銀化合物であることが解明され

水銀化合物が社会問題となってくると)

環境汚染を嫌い次第に姿を消し

今では臨床の現場で見ることもなくなりました

しかしアマルガムは封鎖性が良く

二次う蝕を作ることが殆んどなく歯髄保存

耐久性の観点からも非常に優れた材料でした

ネットで検索するといくらでもありますが

『アマルガムは身体に悪いから取り除きましょう』

などと言っている歯科医もいるようですが

金属アレルギーの症状でもない限りは

そのままでいいと思います

他方 レジンは 私が学生だった頃は

「歯髄為害性があるので使用する際は要注意」 

とされていました

登場から半世紀経ち進化を遂げたレジンは

その審美性と経済性から

以前にも増して使われるようになって来ています

日本はレジン研究で世界をリードしており

幾多の歯科材料メーカーがレジンを生産しています

そして研究者の中には

かつて叫ばれていた欠点は”既に過去のもの” 

という立場の者も数多くおりますが 

歯科医療の末端で診療している私には

「レジンの残留モノマー問題」が

”解決済み”とは到底思えません

虫歯ではないのに

「シクシクとした痛みが…」

「噛むと痛いんですけど…」

と訴える患者さんが後から後からみえるのです
こんな時にイの一番に疑うのがレジン充填です
処置後数か月というのが多いのですが 

長い場合でも2年以内 

短い場合には数日後というのもあります

この痛みを乗り越えると徐々に神経が死んでいきます

神経が死んだ後にはもう痛みが出ませんが 

しばらくすると

違った種類の痛みが出て来るようになります

疲れた時に「歯が浮く」のです

これは感染が原因です

死んだ組織は最近の巣窟となり

ヒトはその細菌を病原菌と認識し炎症が現れます 
歯の充填に使われるレジンは

複合樹脂(コンポジットレジン)と呼ばれ

光を当てることで分子同士の繋がり方が変化(重合)し

柔らかいものから硬いものに変わります。

しかし部分的に重合しない部分(未重合層)

が残ってしまいます

この未重合層が歯髄を刺激するようになり

段々と失活させてしまうのです

これを「レジンの残留モノマーによる歯髄為害性」

と呼んでいます
私は奥歯でのレジン充填は

極力避けるようにしていますが

前歯でのちょっとした虫歯ですと

審美的側面から金属を使うわけにもいかず

止むを得ずレジン充填処置

(虫歯を取って埋める治療)を行うこともあります

この時に必須なのは象牙細管

(象牙質を構成し歯髄まで連絡している無数の細管)

を一層のセメントで封鎖すること(裏層)です

『後々問題を引き起こすようなレジン充填処置』では

裏層をしていないか 

やってあっても十分ではありません

虫歯が象牙質まで達していても

浅い場合には余り問題ないのかも知れませんが

2~3㎜の厚みのある象牙質を

0.5㎜以上削ってレジン充填するような場合には

裏層は絶対に必要です

基本的には露出している象牙質は

あまねく裏層(象牙細管を封鎖)せねばいけませんが

裏層することでレジンの接着力は落ちてしまいます

レジン問題解決の立場から 近年の大学教育における

「保存修復学」の講義・実習では 

維持形態を求めて

より多くの健全歯質を削ってしまう窩洞形成から

罹患歯質のみ削って修復する

レジン充填を主体とする教育に移行しています

患者さんに聞いた話ですが 

「金属が多く入っていますねぇ…

保険でできますから白いものに替えましょうか?」

などと言ってレジン充填を勧める歯科医もいるそうです

いやはやレジン充填との戦いはまだまだ続きそうです

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