初めて会う彼女の母親は

華奢な彼女とは違って随分と肉付きのいい女性でした

どういう訳か私がいつもの調子が出ない状況の中で

彼女は気を使い 

母親に向かって
「いつもはもっとおしゃべりするのよ」 
そして私の方を向いて
「どうしちゃったのよ(笑)?」
あっという間に1時間ほどが経って
私から『決定的な一言』を聞き出せない母親は痺れを切らし
『後は二人で話し合いなさい』と言って席を立ったのです
 

ミチコと私は喫茶店に場所を移しました

「どうして『ミチコさんを下さい』って言ってくれなかったのよ!」

「いや… あのさぁ… オレそんなつもりで今日来てないものぉ…
『母に会って』って言うから 会いに来ただけだものぉ」

この日 国分寺まで行ったのは 数週間前に
『こんな風に(母に隠れて)会っていてもしょうがないから 一度母に会ってくれない?』
と言われたので 
(そうだな どんな男と付き合ってるか 母親も気になってるだろうからなぁ)
と思って 会うことに同意したのです
だから 本気で結婚まで考えていたわけではないのです

しかも ミチコは

私が (結婚紹介所を経営する患者の紹介で出会った)山下の存在も知っていました

ウソをつくことが出来ない私は ミチコに事の次第を全て話していたのです

『そう… 私との将来は見えないものねぇ…』

更には 揶揄うように『リカちゃん(藤島リカという予備校講師としての山下の別名)と結婚すべきよ』と言っていました

私は私で ハッキリとミチコに結婚宣言したわけじゃないですし

陰でコソコソは卑怯だと思っていたので
こんなことがあったんだよ
といった報告のつもりで山下のことを話していたのです

「それにしても あなた 母に向かって何も話してくれなかったじゃない」
「だって あんなに 根掘り葉掘り聞かれたら… 話したくもなくなるよ」
「それは… 娘のことを心配するのは当たり前でしょ」
「でもさぁ 娘が好きになったヤツをもっと信用してくれてもいいと思うよ
何か バカのされてるような気がして 途中から話す気がなくなっちゃったよ
なぁ あの母親を棄ててくれ オレはあの母親と親戚付き合い出来ないよ」
「それは出来ないわ あんな母だけど 私の母なんですもの」
「……」
「これが運命ってものなのねぇ…」
「……」
「私 貴方と結婚しなかったら…一生独身だと思うわ」
「……」
 

ミチコの心が私から離れて行くのを感じ始めていました

そしてこの気持ちは 帰りの車の中で掛けていたCDから聞こえる
『(徳永英明の)恋人』の歌詞と見事なまでにシンクロしていたのです
そして私は とても大切なものを失ってしまったのでは…
あの時の最後の言葉で

ミチコは私への思いをスパッと断ち切っていたのでした