論語学而第一に「有朋自遠方来、不亦楽乎」

(朋有り遠方より来る、亦た楽しからずや)とありますが 

時を越えて来院してくれる患者に出会うのは

この上なく嬉しいものです

 

9月13日の午後 ほぼ10年ぶりにみえたのは

〇屋〇禮〇さん(1938年4月5日生)81歳でした

しばらくぶりでも その珍しい名前は記憶の片隅にありました

「あぁ 会えてよかったぁ お久しぶりですぅ」

「あぁ ホントお久しぶりですねぇ…お元気そうで何よりです」

「ええ 私は元気なんですけどね…色々とあって…なかなか来れませんでした」

「そうでしたかぁ」

「もう噛めなくなっちゃって…」

「そうですか とりあえず写真を撮らせて下さい」

「お口の中をちょっと覗かせて下さいね」

「はい」

「なるほどぉ 左上がグラグラですねぇ…左上のブリッジと

左下2本のインプラントのうち後ろの1本を取らなきゃいけませんね」

「はい お願いします」

左上下に麻酔を数回に分けて打ち 効くのを待つ間 更に話を続けました

「ところで 最後に歯医者に行ったのはいつでしたか?」

「えーとぉ…もう5,6年前になりますねぇ…」

「そうですかぁ…どちらの歯医者でしたか?」

「八戸の歯医者です 妹が癌になっちゃいましてねぇ それで帰っていたんです」

「そうでしたかぁ…それは大変でしたね」

「ええ 引っ越してからこちらにはご無沙汰で…」

「あっ そうそう 南千住から綾瀬に引っ越されたんでるよね」

「ええ それから暫くして妹が…で、しばしば八戸に…八戸が実家なもんで…」

 

〇屋〇さんと話す一方でカルテをチェックしながら 記憶の糸を手繰り寄せていました

『どうして右下にインプラントが1本しか入っていないのか?……

なるほどぉ…初期固定が得られず 入れて間もなく除去してたんだぁ…』

とまれ 残りの3本のうち2本は全く問題がないので

下顎左右の7番に新たに1本づつ入れたら ちゃんと噛めそうです

 

「〇屋〇さんね 今日は左上のブリッジと左下のインプラント1本 それから右下の揺れてる歯ね

これも噛むといたいですよね?」

「ええ 右でも噛むのが大変で…」

「うん そうですよね とにかくダメなものは取りましょう で、その他については次回から治療を進めて行きますからね」

「はい 何とか噛めるようにして頂きたいです よろしくお願いします」

「ええ 任せて下さい ご期待にお応えできるよう頑張りますから 楽しみにしてて下さい」

 

恐らく『アイツなら何とかしてくれる』と思い 久しぶりに訪ねて来てくれた81歳の独り身の老人に 

治療費の話など出来る筈もありませんでした