我々のような末端の歯科医院でよくやる歯周外科処置の一つに
flap operation(フラップオペレーション)があります
現場では 単にフラップとかフラップオペ とか呼んでいます
”歯周” の "外科処置" ですから 大体はどんな処置かお分かりになると思いますが
基本的には 歯の周囲にメスを入れて歯肉を剥離するんです
歯周病というのは『骨を溶かす疾患』ですから 骨(歯槽骨)の破壊が進むと
骨に支えられている歯が前後左右 更に進行すると上下にも動揺してきます
歯が動揺を始めると違和感 痛み 或いは歯周が腫れるようにもなり
歯として機能するのが難しくなってきます
ですからこうならないうちに食い止める必要があります
歯根周囲の骨破壊が進んで行くに従って 骨を覆う歯肉もその位置を下げて行くのであれば
問題は少ないのですが 歯周病患者の歯肉は下がって行かず 相変わらず元の位置にあるのです
即ち ”歯周ポケットが深い” 状態になるわけです
この深くなった歯周ポケットを外科処置によって歯槽骨の直上まで意図的に下げるのが
フラップなのです
このフラップに関してはとても苦い思い出があります
5年くらい前(調べたら2014年6月でした)のことですが
余りにショックが大きくて
患者の名前も住所(さすがに番地までは記憶していません)も顔も忘れることが出来ません
5月7日 初診でみえたのは 丸〇賢〇さん(1970年11月15日生)日本に帰化した外国人でした
☟初診時のレントゲン写真
☟上の写真を更に拡大したもの
上顎前歯4本の歯周は レントゲン上で見ても60~70%の歯槽骨が破壊されており
歯周ポケットを計測してみると5~8㎜(正常ならば2~3mmで10㎜以上ならば抜歯です)
状況を説明すると同時に「歯周外科処置を早急にやらないといけない」と訴えました
保険治療マニュアルに愚直に従うと『歯周外科は初診から4か月目以降』になってしまうので
「とりあえず 算定はしない(お金は要らない)から 直ぐにでもフラップをやらせて欲しい」と話して了解を貰いました
そして 2回目の来院時に歯肉を開き 歯根周囲の不良組織を除去し歯肉を歯槽骨直上まで下げることに成功しました
2ヶ月後 丸〇さんからすごい剣幕で詰問されました
「どうしてこんなに醜い歯槽携帯になってしまったのか? 歯の間は前よりもずっと隙間ができているし…こんな風になっては人前で笑うこともできない」
というような苦情でした
内心『非常にうまくいった』と思っていた私には とても信じられませんでした
数日後
(女子医大に勤務しているという)医師のご主人から電話があり これまた一方的に攻め立てられました
「『術後はこんな風になります』というイメージを奥様が抱けるような説明をしなかった私にも落ち度があることは認めますが
女子医大に歯科医に診てもらって下さい 『ちゃんとした処置ができている』と言ってくれるはずですから… 逆に『この歯科医の診断もオペもダメだね』と言われるようでしたら もう一度ご連絡下さい その時には受けて立ちます」
と毅然と言い放ちました
更に数日後 件のご主人から電話があり 先日とは打って変わった様子で
「口腔外科を受診しましたら『間違いない処置をしていて ウデもいいです』と言われました 今後は女子医大で処置を続けますが 失礼の数々をお許し下さい」
ということでした
歯周外科処置後には 被せ物治療が続く予定だったので『フラップをタダでやっても十分元が取れる』と目論んでいたので
とてもガックリでしたが その後の自分の診療姿勢に大きな教訓となった事件でした
*当時は ブログを書くようになるなんて想像もしていませんでしたので
レントゲン写真1枚しか 客観的資料がありませんので 少々分かりにくい内容だったかも知れませんね