2023年3月日本公開作品。

 

前回、感想を書いた黒澤明監督の『生きる』をイギリスでリメイクした作品です。

 

ノーベル文学賞作家のカズオ・イシグロ氏が脚色し、イギリスを舞台に映画化されました。

 

この先、ネタバレあり、注意!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

映画が始まった瞬間、画面がスタンダードサイズ(昔のアナログテレビのサイズ)だったのには驚かされました。

 

オリジナルの『生きる』と同じスクリーンサイズです。

 

オープニングのタイトルロールも古い映画のような見せ方で、クラシック映画を観ているような雰囲気にさせてくれました。

 

時代設定も1953年とオリジナルとほぼ同じ。

 

ですが、映画の序盤はイギリス紳士の通勤風景というオリジナルとは異なる出だしです。

 

このままオリジナルとは違う展開になるのかなと思わされましたが、役所に着いてからは同じ展開に。

 

主人公が癌で余命幾ばくも無いという事実は、オリジナルとは異なり医師に直接宣告されます。

 

この後、作家に連れられて夜の町を豪遊する展開は同じ。

 

それから役所の部下の女性とデートするのも同じ。

 

ですが、オリジナルと比べて時間は短くなっています。

 

後半、いきなり主人公の葬儀になるのも同じ。

 

葬儀のシーンもかなり省略されています。

 

このリメーク版は、オリジナルに比べて上映時間が40分も短くなっています。

 

短くなった分、主人公の苦悩や、残された人々の葛藤が若干弱まった気がするのが残念です。

 

特に、主人公が生きる目的に気がつくシーンの描写が、この映画では伝わりにくく感じました。

 

オリジナルの『ハッピー・バースデイ』のシーンが鳥肌ものだっただけに、今作は勿体なく思いました。

 

主人公を演じたビル・ナイさんの演技は、志村喬さんと重なる雰囲気もあり良かったです。

 

主人公のあだ名は、オリジナルでは『ミイラ』でしたが、今作では『ゾンビ』となっています。

 

たしかに『ゾンビ』の方が意味合い的に合っている気はしました。

 

オリジナルでは『ゴンドラの唄』でしたが、今作ではスコットランドの民謡が歌われます。

 

このシーン、ビル・ナイさんが美声で歌うのは、個人的には違和感。

 

私には志村喬さんの死を間近にした人間の思いが詰まった歌い方の方が、心に響きました。

 

演出は全体的に、黒澤明監督よりも小津安二郎監督の映画をリスペクトしている感がありました。

 

もちろんオリジナルをリスペクトした演出もあります。

 

オリジナルを観ていると、このシーンは同じだと気がつきますし、ウサギのおもちゃや帽子などオリジナルにもあった小道具も出てきます。

 

オリジナルで私が気になっていた、葬儀に役所の部下だった女性が参列していない点は、本作では解消されています。

 

元が傑作だっただけに、今回のリメークも良い出来の作品でした。

 

本作も観て損の無い作品だと思いますが、出来ればオリジナルの方を観て頂きたいです。

 

オリジナルの黒澤明監督の『生きる』は映画史に残る傑作です。