1952年公開の日本映画。
言わずと知れた巨匠・黒澤明監督の名作。
このたび、イギリスで本作をリメイクした映画が公開されましたので、所有しているDVDで改めて見直してみました。
本当に素晴らしい作品ですので、未見の映画ファンの方は古い白黒映画なんぞと毛嫌いせずに、一度ご覧になってみて頂けると幸いです。
韓国映画の『パラサイト 半地下の家族』という映画が数年前に話題になりましたが、同様のテーマの作品をすでに数十年前に黒澤明監督は『天国と地獄』や『どん底』という作品で制作されています。
もし黒澤明監督の作品を未見の映画好きの方は、一度は鑑賞なさることをお勧めします。
この先、ネタバレあります、注意!!!!!
ある日、胃がんで余命があとわずかな事を知った主人公が、無駄に過ごしてきた人生を悔やみ、残された時間をどう生きるかを描いた作品です。
演出も脚本も素晴らしく、何度見ても感動させられます。
143分と長めの映画ですが、無駄な場面がほとんど無く、一気に引き込まれます。
導入部は、市役所で黙々と当たり障りの無い仕事をしている主人公を描きます。
ナレーションで、この主人公は死んでいるのと同じであるとまで言われるほど、無駄に日常を過ごしています。
そんな主人公が胃がんであると自覚する経緯が上手い。
待合室で偶然、話しかけられた患者からの言葉で自覚するのです。
その後、ショックから大金を手に町をさまよう主人公。
そこで出会った小説家に全てを告白し、残された人生を楽しみたいと、これまで経験したことの無い夜の町を遊び回ることになります。
この姿がなんとも可哀想で、胸が締め付けられます。
その後、市役所の部下の女性と会うことで、若い女性の生き生きとした姿にあこがれ、彼女との時間を過ごすうちに残された人生の目標に思い至るのです。
この時、主人公が階段を降りる背後から『ハッピーバースデー』が歌われる演出が素晴らしい。
主人公に対して歌っている訳では無いのですが、まるで目覚めた主人公を祝福しているかのように歌われるのです。
あの長駄作『デビルマン』における『ハッピーバースデー、デビルマン』の陳腐さとは雲泥の差です。
その後、主人公の葬儀の場面に切り替わる意外性。
葬儀の参列者の回想によって、主人公がいかにして残された短い人生で公園を作るに至ったかが語られていきます。
本当に素晴らしい脚本だと思います。
終盤、余命わずかの主人公がブランコに乗りながら『命短し 恋せよ乙女』とゴンドラの唄を歌う場面は映画史に残る名シーンです。
鑑賞中に気になったのは、葬儀に役所の元部下の女性が参列していなかったこと。
ですが、もし参列していたら、愛人だの何だのと親族から言われそうですし、物語としても横道にそれかねないので、これはこれで仕方が無い気もします。
と、絶賛していますが、問題が全く無いわけではありません。
これは黒澤明監督の白黒映画作品の全てに言えることなのですが、台詞が聞き取りづらいのが難点です。
特に左ト全さんの台詞は、ほぼ何を言っているのか分かりません。
あと、主人公の志村喬さんの演技は素晴らしいのですが、劇中でも指摘されている『雨だれがポツポツと落ちる』ように話すのが、少々イライラさせられます。
台詞が良いだけに、これらの演出は勿体ないです。
色々と書きましたが、人間が『生きる』という意味を真っ正面から描いた名作です。
余談ですが、今年、公開される宮崎駿監督の最新作『君たちはどう生きるか』が、宮崎駿監督版の『生きる』になるのではないかと密かに心待ちにしています。
次回は本作をイギリスでリメイクした『生きる LIVING』の感想です。