「裏」のお話し | 伝世舎のブログ

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 10月に開催した「修復のお仕事展」では「裏」というテーマで各自展示をしました。伝世舎は掛軸とパネル装の裏についての展示です。



 東洋の絵画や書は、紙や絹などの脆弱な素材に描かれています。そのような作品を飾ったり保管したりするために、補強と表装をします。裏に紙を貼りつけて補強することを「裏打ち」といいます。


裏打ちに使用する紙

① まずは掛軸の裏側のお話しです。
 掛軸は、本紙(紙や絹地に描かれた絵や書)の回りに表装裂(ひょうそうきれ)、上下に杉材の棒(八双と軸棒)を付けた形のものです。飾る時に広げて、保管する時には巻いて仕舞っておきます。広げたり巻いたりするため、柔軟な仕立てが求められます。一般的な掛軸は、3~4層の異なる和紙が裏打ちされて、掛かり具合が良く、本紙を保護するような工夫がされています。
 各層の名称と特徴は以下の通りです。

 


◆肌裏(はだうら)
 本紙と表装裂の裏に直接貼りつける、最初の裏打ちです。形状の固定と補強をします。薄美濃紙のような薄く強靱な楮紙を生麩糊(しょうふのり 小麦粉澱粉糊)で接着します。
◆増裏(ましうら)、中裏(なかうら)
 肌裏の次の裏打ちで、本紙と表装裂との厚みやしなやかさを調整すします。柔らかな美栖紙を、古糊(ふるのり)を使って打ち刷毛で打って接着します。掛軸の形(本紙に表装裂が付いた形)になった後、さらに裏打ちを施すことが中裏打ちです。
◆総裏(そううら)
 掛軸の仕上げとなる最後の裏打ちです。開いたり巻いたりするときに滑らかになるように、平滑な仕上げにします。引き締まった美しい表情の白土の入った宇陀紙を使用。古糊を使い打ち刷毛で打って接着します。

② 次にパネル装の裏側のお話し。
 襖、屏風、和額の構造は、パネル装に本紙が貼られ、その回りを台紙や表装裂で飾り、縁(ふち)を装着した形ものです。
 伝統的なパネル装の構造は、杉材の骨(骨組)に数層(7~8層)の和紙を工程ごとに違う方法で貼ります。これを「下張り(したばり)」といいます。
 四季の温度湿度の変化を上手く緩和して、本紙に大きな負担を掛けさせないための工夫が施されています。

 


◆ 下張りパネル
 パネルとして、6~7層の和紙が貼ってあるのが理想的です。細川紙や石州紙のような繊維の長い強靱な楮紙を使用します。
 昔は、紙が貴重だったので、反古紙(ほごし 不用になった紙)が使用されていました。
◆ 下張りの役割
* パネル自体に強度を持たせる。
* 骨を補強して歪みが出ないようにする。
* 骨と本紙の伸縮の差を吸収し、裂けの損傷をくい止める緩衝材。
* 骨から出る脂(やに)を吸収し、本紙に影響を与えないようにする。
* 通気性があり、湿度の調整をする。
* 紙の層でできているので、大きさの割には軽量で、動かす(移動・稼働)ことが容易。



パネルの下張り層

 展示はポスター以外に各紙を触れるようにし、骨や下張りの見本を展示しました。

 


 

 普段は見ることのできない「裏」のお話し、如何でしたでしょうか。
 今後も色々なテーマでブログを更新していきますのでお楽しみに。

 掛軸、襖、屏風、和額の修復のご相談は伝世舎に。