(24/6/3)
写真・映像が多いので期待していなかったが、twitterで調べたら評判が良かったので訪れることにした。結果、面白い作品が多く満足度の高い展覧会だった。井田大介、シュ・ビン、トレバー・パグレン、ティアン・エングホフ、木浦奈津子、エヴァン・ロスが面白いと思った。
横浜トリエンナーレを見た後で訪れた。横浜トリエンナーレで、少数の面白い作品を圧倒する、作品に昇華しきれていないものや素人が作ったみたいな作品を大量に見た気がする。不満が残った。しかし遠距離現在展の作品はちゃんと作品だった。
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・井田大介
「誰が為に鐘は鳴る」。大きな映像。紙飛行機が回っている。下に円形に並んでいるのはガスバーナー。ああなるほど、ガスバーナーの火で生じた上昇気流に乗って、飛んでいるのか。飛行機はガスバーナーに沿って円を描き、落ちずに回り続ける。そんなにうまくいくことあるか?うまくいった部分をつなぎ合わせているのだと思う。
(現代美術の映像には定番だが)不穏な低いうなりの音が緊張感を高める中、紙飛行機は低空飛行を続ける。
「Fever」。2人の男性がバーナーで古典的な彫像に火を噴きつけている。何が起きるのだろう。画面が暗くなり、彫像は赤く発光する。何も起こらないが緊張感がある。
「イカロス」。気球の籠(人が乗る部分)が燃えた状態で、気球が昇っていく。火が上がり、今にも気球部分に燃え移りそうだ。しかしそのまま上がった。高く上り、飛んで行った。
どれも熱・火を扱っていて、映像だが面白かった。
・トレヴァー・パグレン Trevor Paglen
インターネットの光ファイバーケーブルが上陸する場所の写真を撮る。また、海底ケーブルを撮る。
普通の風景に見えるが実は意味を帯びたものを撮っている、というものはよくあるが、この作品は写真として美しい。
青い海中を写した、美しい写真が並んでいるように見える。(パグレンはこのためにスキューバダイビングの資格を取ったという)。
AIが作り出したイメージのシリーズ。
AI1に、あるカテゴリーの大量の画像を見せて学習させる。AI1に本物の画像と偽画像を見分けさせて機械学習を行うために、別のAI2に偽画像を生成させる。AI1とAI2にやり取りさせていき、お互いが学習していく。その過程でAI2が作った偽画像を、印刷して写真として展示している。
これが何とも言えずおぞましい。
(AIどうしがゲームみたいなことをやりあっているのもおぞましいが)。
「天使」、確かに古典絵画の天使のイメージがやんわり見える。あとづけで人間がつけたタイトルだろう。(それともAI2が画像を生成するときにタイトルも決めてくれるのかな)。
「彗星」。タイトルに「(コーパス:前兆と前触れ)」とある。これはAI1に覚えさせたデータセットの名前(カテゴリ)を表す。「前兆と前触れ」は彗星や日食など、これから起こる悪いことの兆候の画像を覚えさせるデータセットであるという。「彗星」は空に長い亀裂のような・墜落した飛行機が残す飛行機雲のようなものが見えて、悪いことが起こりそうだ。
「軍人のいない戦争」は、9.11のツインタワー、または悪魔のようなものに見える。
「ポルノ」。赤いベッドに、ぐにゃり変な形の肌色の物体。フランシス・ベーコンの絵に出てきそうだが、人間の体のようで明らかに違う、もっと気持ち悪いイメージに見える。
タイトルに「敵対的に進化した幻覚」とある。AIを紛らわしい画像でだますためという意味で敵対的。実体を持つ何かでないという意味で幻覚。
見慣れた何かに似ているようで、でもずれている。だからおぞましいのか。
これはこの展覧会で一番面白かった。現実の何かと間違わせるためにAIが作ったイメージであり、写真でありながら人間が考えついたのではないイメージということになる。
・ティナ・エングホフ Tina Enghoff
これも印象に残った。
デンマークでは、身寄りのない人物が亡くなると広告が出る。その定型文が作品タイトルになっている。「心当たりある御親族へ―男性、19**年生まれ、自宅にて死去、**年**月**日発見」。
アーティストはその部屋を撮る。一歩間違えばグロテスクでおどろおどろしい写真になりかねないが、これは違う。
このピンクの部屋は印象的だった。静物画や風景画が飾ってある。おしゃれでかわいい部屋だ。孤独で寂しい生活、という感じはなく、この人は自分なりに楽しんで生きていたのだろうと思う
おぞましいものもある。散らかった床に血の染み(または体液)らしきものがあるとか。身寄りのない人が「自宅にて死去」だとそうなりかねない。タイトルに何年生まれとあり、多くは老人だ。たまに50歳くらいの人もいる。
カーペットが切り取られ、赤く汚れている。これは死体を取り除いた跡だろう。でもピンクの壁紙で明るい光が差し込み、落ち着いた暮らしにも見える。
つづき;