前の記事;

 

(24/6/3)

横浜美術館 つづき

 

・エクスパー・エクサー。
 それ自体はなんてことのない、パフォーマンスの遺物や記念品を、青いマットに載せて恭しく展示する。1点1点の説明がついていて、これがしつこく続く。ちょっと面白い。貼り付け用の胸毛を額に入れて展示。

 

 


「苦悶の象徴」

 この部屋は気に入らない作品が多かった。これまでの部屋に比べて、作品の質がもう一段下がった気がする。まともにじっくり見れない。

・シビル・ルパート Sibylle Ruppert


 好きなタイプのものではないが、この部屋では一番しっかりした作品だと思う。
 だいぶ気持ち悪い、80年代のドイツの画家(1942-2011)。女性。


 精緻に描かれた木炭ドローイング。筋骨隆々のいくつかの怪物がからまっている。性器と顔が混ざり合ったようなものなど、たくさんの顔・目がある。描写力は高いが気持ち悪い。

 


 油彩。大砲のような顔のついた怪物が赤い髪の女性を飲み込んでいる。
 機械と身体を組み合わせたコラージュだがやっぱり気持ち悪い。

 

 


「鏡との対話」

・アネタ・グシェコフスカ Aneta Grzeszykowska

 荷台に女性の半身が乗っていて、それを少女が引いている。シュルレアリスムみたいな不思議な光景だが、現実の写真である。


 ポーランドのアネタ・グシェコフスカは自身にそっくりのシリコン人形を作り、それを娘に与えた。シリコン人形と対話する娘を写真に収めた。母と娘の関係が逆になっていて、子供は人形遊びをするように母親の身体で遊ぶ・世話する。タバコを吸わせたり、紫の絵の具を母の顔に塗ったり。

 




 自分の裸のリアルな人形を与えるという発想が面白い。小さいころにこんなので遊んで、どんな子に育つのだろう。

 ベッドに裸の半身。横に伸びる脚は娘。


 母を土に埋める。

 



 犬のシリーズ。人の顔のマスクを作って犬にかぶらせた。
 池のほとりに人面犬。犬は普通にしているだけだが、不気味なものに見える。


 


 苦悩するような表情の犬がぬいぐるみのにおいをかいでいる、とか不気味なイメージ。

 


 立体もある。黒くて甲冑みたいなのは、ミッキーの耳の少女の像。写真で犬が付けていた仮面をかぶっている。口はあき、目はない。仮面に目(くぼみ)があるから見えているように見えるが犬は見えていない。





・オズギュル・カー Ozgur Kar

 これも面白いと思った。

 ディスプレイを連ねた縦長のスクリーンに、骸骨のアニメーション。これが3つセットで楽団を構成している。アニメーションといっても、ほとんど分からないくらい小さく動く。
 骨のバイオリンを奏でる。骨のフルートを奏でる。悲し気に時々音を鳴らす。

 


 真ん中のディスプレイの骸骨は長い木の杖によりかかり、音楽に合わせてぼそぼそと語る。


 ちょうど骸骨の身体が収まるサイズの縦長のスクリーンの枠の中に、窮屈そうに詰め込まれている。(先月宇都宮美術館で見たイヴ・ネッツハマーにも、ディスプレイに窮屈に閉じ込められた身体の作品があった。)

 トルコのアーティスト。モノクロアニメーションで、実存的な問題に苦しむ擬人化されたキャラクターを描く、と紹介されている。(ちなみにインタビューで、影響を受けたものとして日本の"Cat Soup"すなわちねこぢるを挙げている。)
 ミニマルなアニメーションの骸骨は、中世の絵画の「死の舞踏」(骸骨が踊る図像)をモチーフとしている。


 グランドギャラリーにもカーの作品があった。
 全長7メートルのスクリーンには土から引き抜かれた倒木のアニメーションが映し出されている。ハエがぶんぶん飛んでいる。アニメの木は白く、骨のようでもある。両面貼り合わせになっていて、裏に回ると同じ映像がある。
 骸骨と同様にこの木はメメント・モリの役割を担い、犠牲、腐敗を象徴するという。



・ステファン・マンデルバウム Stephane Mandelbaum


 事前に調べてきたが、この人は人となりが面白い。

 ホロコーストを生き延びたユダヤ人の家庭に生まれた。ナチスの画像を積極的に流用し、落書きのように描いた。

 彼はブリュッセルの裏社会にのめり込み彼らの肖像画を描いた。凶悪犯と時間を過ごし、やがて自身も強盗などを働くようになった。1986年、25歳のとき、民家からモディリアニの絵画を盗んで金を手にするが、それが贋作だったと分かり犯罪組織に殺された。

 まさにアウトサイダーなアーティスト。近年ヨーロッパで、知られざる画家としていくつも展覧会が開かれているようだ。定番の知られざる画家という存在か。


 ドローイングばかりと思っていたが、油彩もあった。
 義足を描いた油彩。ピンクの円の中に書いていて、ウイリアム・ケントリッジみたいな雰囲気。
 


 大きな油彩。黒い服に髭、ユダヤ人の正装。右半分は赤い血が飛び散る。ベーコンっぽさがある。
 マンデルバウムはベーコンが好きだった。ベーコンの肖像を描いたドローイングも。


 この部屋は面白いものが多かった。

 一方で、展示はさらに迷走する。昔の日本人画家の素朴な風景画。縄文土器。勅使河原蒼風の富士山の絵たくさん。など、なぜここにあるのか分からないものが展示されている。