(2024/3/30)


 環境と人間の関わりに言及する作品を集めた展覧会。以下の3つの作品が、特に面白いと思った。

 第1章 全ては繋がっている

 エミリヤ・シュカルヌリーテ「時の矢」(2023)。1987年生まれ、リトアニアの女性作家。
 没入感のある大きな映像。


 海面のすぐ下に海底遺跡があって、上空からの映像では海底遺跡の上を人魚が泳ぐ。海底にはモザイク画が見える。(これはイタリアにある、古代ローマの都市バイアの遺跡。紀元前から栄えたが、4世紀から地殻変動により数百年かけて海底に沈んだ。現在はダイバーに人気のスポットになっているという。)

 


 現実の映像と思って見ていると、奇妙なものが見えてくる。海底にコンピュータが整然と並び、ライトが点灯していてコンピュータが稼働しているのが分かる。この設備の中を潜り抜けていく場面は壮観。
 これは海底のデータセンター。データセンターはサーバーやネットワーク機器が並ぶ設備である。海底にサーバーが裸で並んでいるというこの映像はさすがに虚構(CGで作っているという)だが、海底にデータセンターを置くのは現実に検討されている。マイクロソフトが実証実験を行っているし中国企業も実行しようとしている。海底の温度が低いことから、冷却の点で有利であるという。実際の海底データセンターは密封されたコンテナに格納されており、水の中にサーバーが並んでいるわけではない。



 原子力発電所の中、数字のボタンがたくさん並んでいるパネルを、大きな蛇が這っている。
 この舞台はイグナリナ原子力発電所。(リトアニアがロシアから引き継いだ原発だが、チェルノブイリと同型であり懸念があり、EUの求めに応じて2009年に操業停止した。)

 人間が文明を築いても自然の力には逆らえないこと、原子力を人為的に取り出し制御しようとすること、そして情報社会に起こりうる関わり。
 現実と虚構を織り交ぜて、人間と自然のかかわりを、歴史を超越した視点でとらえる映像で面白かった。



 第3章 大いなる加速

 ジュリアン・シャリエール(1987年、スイス)「制御された炎」(2022)。
 火の粉が移っていく地味な場面から始まる。しばらく見て分かってくる。花火の爆発を逆回し・スローモーションにしている。放射状に1点に収縮していく。


 解説には映像の舞台として露天掘り炭鉱、石油採掘機、冷却塔とある。花火の下に時々、荒涼とした大地が見える。これが露天掘り(坑道を掘らずに地面から直接掘る炭鉱)の跡だろう。
 赤く照らされた大きな環状の構造が見えてくる。(発電所の冷却塔を上から捉えたものだろう)。冷却塔の映像と花火の映像を重ねているものと思われる。花火の光が四方から輪の中心に集まってくる。花火は激しさを増し乱れ飛ぶ。戦争の砲弾の雨のようにも見える。
 やがて激しい花火と煙のたちこめる中から、石油採掘場のやぐらが見えてくる。花火の背景に見えてくるものに共通するのは、人間が資源を求めて自然を大規模に開発してきた現場ということ。
 派手でかっこいい映像。これも大きくて没入感がある。今回、意外と映像が面白い。

 

 



 保良雄(やすらたけし)。「fruiting body」(2023)。これはかっこいいインスタレーション。

 真っ暗な部屋で、床に直接構築されたインスタレーション。

 電球が下がり、数秒ごとに明滅する。床の上で、塩が溶けて固まったように見える。赤茶のなみなみした表面。これは何か人工のものが含まれているように見える。
 半透明な結晶や、岩がゴロゴロ置いてある。
 


 白い大理石の板が敷き詰めてあり、一部大理石が見えるエリアを残して、その周りが黒い石のようなものに覆われている。大理石は自然のものであり、石灰岩や動物の遺骸が海底で再結晶化したできたものである。自然のものだが、矩形の板状に加工されている。矩形の黒い板が一つ立っている。これは黒い大理石だろうか。
 逆に、床を覆う黒い石は自然のもののように見えたが、これが解説にあるスラグだろう。廃棄物を数千度の高温で溶かして、冷やして固めたものであり、人工物である。
 半透明の結晶、これが岩塩だろう。大理石の板の上に塩が溶けて固まっている。結晶に細い糸が垂れ下がり、下から途中まで結晶が付いている。



 自然のものを使ったインスタレーションと思ったが、自然物と人工物が絡み合っている。

 カチカチいう音は鳥の声をもとに人工的な音を作っているという。

 

つづき;