アイドルが卒業後に当時の不満を語るムーブはいつの時代のどのグループにもありますが、アンジュルムの初代リーダー和田彩花さんの言葉は、鋭角に業界の問題をついているのか、多様性の時代にあっているのか、活字メディアに何度となく取り上げられてきました。

 

過去の発言のほとんどは、スマイレージ時代(2010~2014)におきた出来事を語ったもの。

スマイレージが活動していたころのハロプロは、まだ昭和の芸能界の非常識な常識や過去の成功体験(森高千里さんやモーニング娘。)に引っ張られている感が否めず、初期のキャッチフレーズ「日本一スカートが短いアイドル」や新曲のタイトルにあわせた髪型の強制、2期サブメンバーが正規メンバーに昇格するさいに行われたスカートカットの儀式に、youtubeを使った公開ダメ出しなど、ファンがドン引きするプロデュースも多々ありました。

 

また、6人時代のスマイレージや初期のJuice=Juiceなど、過酷なスケジュールで全国のライブハウスをまわるツアーを組まれたことも、心身の疲弊につながったと思います。

(夏休み期間は1週間に1日2日しか帰れなかった)

スマイレージの回顧なら昔の話と言えなくもないですし、今のハロプロは心身の不調で休むことができる。全国ツアーのスケジュールも当時と比べて緩やかになった。大手アイドルの写真集が下着の時代に、水着のない写真集を出している。

(メンバーと保護者が写真集を出すかどうか、水着を着るか事務所と話し合い、選ぶことができる)

 

何より、和田さんの所属事務所の社長は、彼女が問題視するスマイレージのマネージャーだった方だから、今もおかしいなら和田さんが事務所に残るわけがないと考えていました。

 

しかし、今回の記事には、

 

 

最終的にはメンタルの問題を自分で抱えきれなくなったことが、24歳でグループを卒業する理由の一つにもなった。

 

後輩に会うと休んでもいいと伝えている。

アンジュルム改名後の話も書かれていて、待遇は良くなったにせよ、同じような問題は残っているのではないか? と、不安になります。

 

心身の不調を訴えたメンバーを休ませることはできても、そうなる前にケアできていないのでは?

 

アンジュルムになって一般的なアイドル像を押し付けられることがなくなっても、アンジュルムらしさを求められることはあったのでは? 

 

つばきファクトリーの谷本さんがブログでメンバーに対する誹謗中傷に釘を刺したけど、本来、これは事務所の仕事ではなかったか?

 

そんなモヤモヤが、いくつも頭を駆け巡りました。

 

私たちファンの立場からは、アイドルの「リアル」について何もわからないし、事務所がどのようなマネジメントをしているか(グループのコンセプトを納得させられているか、メンバーのアイドル・女性としての悩みに対応できているか、スタッフの男女比はどれぐらいなのか)何も知らない。

 

だからこそ、和田さんの指摘には耳を傾けても、その内容をヲタの妄想でふくらませて事務所を批判するのは違う。私の役目ではないと感じました。

 

今回の記事で残念だったのは、和田さんに問題提起された側――つんく♂さん(スマイレージの総合プロデューサー)やハロプロの事務所、当時のマネージャー(和田さんの所属事務所社長)のコメントが書かれていなかった点。

 

ジャニーズ事務所というマスコミやメディアに顔がきく巨大な芸能事務所と、テレビの音楽特番と無縁のアップフロントを並べて語るなど、最初から書きたい内容が決まっていた。

問題提起が目的でも、欠席裁判にならないよう、当時と今を知る関係者への取材は行っていただきたかったです。

 

記事を読んだ私に何か言えることがあるとすれば「アイドルグループのオーディションを受ける子供を持つ親御さんは、本人の意思を必ず確認して」と、お願いするぐらい。

お子さん“が”アイドルになりたいのか、親がお子さん“を”アイドルにしたいのかがポイントで、本人に興味がないなら、お子さんの将来のためにも無理強いはしてほしくないです。

 

オーディションと言えば、つんく♂さんが参加者にデコ出しを要求するのは、その子の前髪をあげた顔を見たいからではなく、言われてすぐに前髪をあげられるかどうか試しているというエピソードを聞いたことがあります。

 

アイドルをプロデュース「する・される」という関係性を、如実に表しているのではないでしょうか?

 

和田彩花さんの問題提起の根っこにあるのは、思春期の少年少女がプロデュースされることによるアイドル的な、男性・女性的なイメージの固定(押し付け)への反発であり、本人のパーソナリティとの乖離にあるので、ここを改変するなら既存のグループアイドルの形にメスを入れることとなる。

 

例えるなら「乃木坂のメンバーは薄化粧、ネイルは控えめで制服を着用、座るときは必ず膝を閉じなければいけない」というグループのイメージ・コンセプトを完全否定したのが、今回の指摘だったと思います。

 

大手が変わらない限り、業界は変わらない。

ハロプロ一強だった2000年代前半ならまだしも、2024年にアイドル業界を変えたいなら、ハロプロやアップフロントの枠に留まっていては追いつかないでしょう。

 

「アイドル戦国時代」と呼ばれたブームから10年以上の時が過ぎました。当時アイドルをしていた元アイドルの中には、事務所を立ち上げてアイドルの待遇を改善したり、セカンドキャリアを支援する会社を経営している方もおられます。

 

和田さんも、ハロプロを卒業して、早や5年。

これまで和田さんは古巣のハロプロに何度となく言及されてきましたが、ハロプロの事務所が業界では評価されている(アイドルを守る優良企業という定評がある)ことは有名。

もっと酷い環境で活動するアイドルもいる。

本気で業界を変えたいなら、昔話や問題提起にとどまらず、自ら行動をおこす時がくる。

 

プロデュース「される」側だったアイドルが、自ら「する」側にまわって、アイドルになりたい後輩の個性を守りながら業界を変えていく。そんな未来がやってくるなら、アイドル戦国時代は一過性のブームで終わらなかったと言えます。

 

何もしなければ、思春期の少年少女をアイドルにすることの是非が問われる時代がやってくるかもしれません。