「ちょっと! 変なこと言わないで」

「でもなあ」

「でもな~じゃない。もう、この話はおしまい」

声をひそめて、強い口調で、私はカズに注意した。

白いイヤホンを耳に入れ、ipodの再生ボタンを押す。3月に発売されたニューアルバムのお気に入りは、10曲目と12曲目だ。

2010年8月8日、中野サンプラザ。

ハロー!プロジェクトの夏のコンサート「ファンコラ」の、入場列に私はいる。

30℃を軽く超える猛暑のなか、愚痴も言わずに並ぶ人たちには、顔なじみも多い。

しかし私は、彼らの本名も、どこに住んでいて、普段何をしているかも知らなかった。

阪神ファンも、巨人ファンも、Jリーグのサポーターも並ぶ行列。

立場や価値観が異なる人たちが、同じ方向をむいて、色とりどりのケミカルライトを手に盛り上がる。夢のような2時間。

コンサートは、私の元気の源だ。

味方しかいない入場列では、普段できないモーニング娘。の話も気兼ねなくできる。

そんな至福の時間に水を差したのは、カズの余計な一言だった。

「なんか嫌な予感がする。『お知らせ』とかあるんとちゃうか?」

結成13年。

卒業と加入を繰り返しながら進化してきたモーニング娘。は、ここ数年、オーディションをおこなっていない。

メンバーを固定して磨き上げた歌とダンスは最高で、フランス公演も大成功。

新メンバーが入り込む隙なんて、全くないように思える。

(このまま8人で頑張って、いつか解散するのかな?)

カズを叱った私も、心のどこかで、そんなふうに感じていた。

 

9期メンバーオーディションの開催に沸き立った会場が、水を打ったように静まりかえっている。

ステージでは、白銀のスーツを身にまとった、きのこの国の王子様と、白いパンツに白いシャツ、黒いジャケットのプロデューサーが、話を続けていた。

「前回のオーディションから丸4年がたったんですけども、どうして、このタイミングでオーディション開催を決定したんでしょうか」

「はい、そうなんです。気がつけば4年がたっておりまして、まあここのところ『いつオーディションしようかな?』という感じで、タイミングをうかがっておりましたが、実は、卒業するメンバーが決まりましたので」

「ええええええええ!」

 隣のカズが、ここぞとばかりに大声を出す。

「嫌な予感がする。とか言ってたくせに」

そんな私のつぶやきは、彼に届く前に吹き飛んでしまった。

立て続けに発表される、三人の名前。

その中に、私が応援しているアイドルの名前もあった。

彼女は底抜けに明るくて、笑顔が可愛くて、いつもオリジン弁当ばかり食べている19歳。中国からの留学生メンバーは、ソロパートがほとんどなかったけれど、去年の春ツアーのメドレーで任された「青空がいつまでも続くような未来であれ!」の歌い出しに、私はすっかり魅了された。

(シングルで歌割りがもらえるまで辞めないって、言ったじゃない)

心の叫びとうらはらに、拍手をおくる私。

まわりの音が、どんどん遠ざかっていく。

暗いCRYよどみの中、「どうして?」の四文字が浮かんで消えた。

 

 

「えっ? 今どこにいるかって? 気まぐれプリンセスホテルだよ」

スーツにネクタイ、グレーのステンカラーコートを着たサラリーマンが、上機嫌で携帯電話を握っている。

ホテルの前に張り出された満室のお知らせには、「横浜アリーナでおこなわれるイベントのため」という一文が添えられていた。

2010年12月15日、水曜日。

後に「プラチナ期」と呼ばれるようになるモーニング娘。の集大成、「ライバルサバイバル」横浜アリーナ公演が終わった。

「……いいコンサートだったね」

「ああ。むっちゃ良かった」

「私、渡良瀬橋で泣いちゃった」

「甘い甘い! 俺なんか、大きい瞳からの夕暮れ作戦会議、スッピンと涙でボロボロや」

「なに自慢してんのよ」

私はカズと二人、軽口を叩きながら新横浜駅に向かっている。

最終の新幹線には間に合わないので、歩くスピードはゆっくりだ。

「ありがとう」

「俺、なんかしたか?」

「グッズ列。三時間も並んでくれて」

「日替わり(写真)、買えなかったけどな」

この日カズは会社を休んで、横浜アリーナを一周半、ぐるりと取り囲むグッズ列に並んでくれていた。

グッズ列はそのまま入場列となり、会場内のグッズ売り場まで歩いていったという。 

クリスマスに届く速攻DVDの予約列に並んだ私が、客席から見たスマイレージのオープニングアクトを、カズは聴くことしかできなかった。

「グッズ列、悲鳴あがっとったで。人気あるんやなあ」

「うん。かわいかったよ」

「レコード大賞の最優秀新人賞、とれたらええな」

「うん」

「℃-uteの時はおもろかったもんな。最年少のまいまいさんだけ泣かなかったやつ」

「そうだね」

「……」

「……」

「ごめんな」

「えっ?」

「未来を語るの、少し早すぎたわ」

くしゃっと丸めて広げた紙のような表情で、カズが頭をさげる。

私はあわてた。

「違うの。少し考え事しててさ、いやボーッとしていて」

「どっちやねん」

通常営業でツッコむ姿に、少しホッとする。

カズは、腕の銀時計をチラリと見た。

「良いことやったら別にええけど、今夜は考えこまへんほうがええで。夜遅いけど飯でも食って、あったかくして寝るのが一番や」

「うん。ありがとう」

私は、小さな誤解を解いておこうと思った。

「リンリンの手紙のことを考えていたら、『そんなの無理でしょ』って思ってさ」

「……聞かなくてもわかるわ。『みなさん、リンリンより幸せになってくださいね』やろ?」

「そう! それ!!」

私の頬は、少しふくらんでいたと思う。

「いつも笑顔で、先輩みんなから好かれて、ファン想いで……あんな良い子より、幸せになれるわけないじゃん? 『約束だよ』って、かなりの無茶ぶりだと思わない?」

まくし立てる私に、カズはうなずくと、

「幸せになりたい幸せになりたいってずっと思ってると、幸せになりたいだけで終わっちゃうんです。幸せだなぁって思っていると、ずっと幸せのまま過ぎていくんです」

そう言って微笑んだ。

この言葉は、カズが好きなアイドルが残した名言として、モーニング娘。のファンに広く知られている。

彼女もまた、この日を最後に卒業していた。

 

 

2014年11月26日。

4年前、同じステージに立っていた8人のモーニング娘。のなかで最後まで残ったメンバーが、卒業の日をむかえていた。

毒舌キャラでテレビに引っ張りだこだった「カワイイ」アイドルは、美しい大人の女性に成長。偉大なリーダーとして、モーニング娘。の歴史に名を刻む。

私たちはリビングに3人、テレビの生中継にかじりついていた。

ファンクラブから、青い封筒が届いたとき――

「1人で行ってきたら?」

と勧めてみたものの、夫がうなずくことはなかった。

「臨月の妻を家に置いてライブに行ったら、つんく♂さんに『お前、今までハロプロの何を聴いてきたんや?』って叱られるで」

カズの言葉は大げさに感じたけれど、うれしくないと言えば嘘になる。

今日も、テレビの向こうのモーニング娘。を心配する私に、「見てて大丈夫か?」と、声をかけてくれた。

1度目はうれしかったけど、何度も聞いてくるので少しウザったい。

(ハロプロは胎教にいいのよ)

(こんなに凄いライブ、目に焼き付けなくてどうするの?)

心の中でつぶやいて、私は電池式のペンライトを握った。

足をつって動けなくなったリーダーをステージに残して、9人の後輩が花道を歩いていく。

“今の”モーニング娘。の代名詞になったフォーメーションダンス。本当は10人で踊るはずだった立ち位置を、年若いアイドルたちはまるで最初から9人で踊ると決められていたかのように修正した。

「会場にいる人、演出だと思うよね」

「せやな。新たなモーニング娘。の旅立ちに見えるわ」

カズの感想を聞きながら、4年前を思い返す。

リンリンはモーニング娘。を家族に例えたけれど、本当はザイルで結ばれた登山家なのかもしれない……と、私は思った。

日本武道館に、横浜アリーナ。そんな大きな山を、先輩の助けを借りて登った後輩たち。これからは自分の力で、次の山に挑むのだ。入ったばかりの12期メンバーを連れて。

「おお! 走った走った」

カズが手を叩く。

横浜アリーナでは、この日のコンサートで新リーダー就任が発表された9期メンバーが、花道を猛然とダッシュしていた。

彼女はまだ18歳。リンリンが卒業した年よりも若い。

9期メンバーのお披露目イベントで、同期の小学生をフォローしていた姿が、昨日のことのように思い出された。

花道を駆け寄ってきた後輩を迎える先輩の笑顔は、慈愛に満ちている。

伝説のリーダーの後を継ぐ、モーニング娘。史上最年少のリーダーにかかるプレッシャーは、相当なものだろう。

私は、彼女がリーダーになったモーニング娘。も応援していきたいと思った。

 

 

「アカン。なんか緊張してきた」

「なんであんたが緊張するのよ」

私はカズと二人。芝生の上で、ドキドキしながらモーニング娘。を待っている。

4歳の娘は、実家に預けてきた。今ごろはきっと、従兄弟を相手に「眼鏡の男の子」ごっこをしているに違いない。

2019年8月10日。

国営ひたち海浜公園。

日本最大級のロックフェスの、一番大きなステージにモーニング娘。が立つのは、22年の歴史のなかでも、初めてのことだった。

「彼女たちはいつも通りのパフォーマンスをやって、あれだけの熱狂を繰り広げてくれたわけです。まさに、モーニング娘。を、このフェスは『発見』したわけです」

1年前のステージを振り返りながら、熱く語る主催者。そのコメントに、目頭が熱くなる。

「こっちは、どっくに見つけとんねんけどな」

小声でツッコむカズをひとにらみして、私はステージに集中した。

「今日ここに集まったみんなは、このグラスという巨大なステージに立ったモーニング娘。を、何とか勝たせたいっていう人たち。そして、彼女たちの勝利を目撃したい人たち。そういう人たちで、これだけの人がうまっています。みんな彼女たちの勝利が見たい。という想いだと思います」

「いいぞ!」という声が、隣から聞こえた。

「勝たせたいじゃないですか!」という主催者の呼びかけに、自然とわき上がる歓声。KOKOROとKARADAの足並みがそろった拍手は、本当に気持ちが良い。

「大きな声援で迎えてください。モーニング娘。ワンナイン!」

今日もまた、心地よいリズムに包まれる。

こうして私たちは、モーニング娘。がまだ見たことのない景色の一部になった。

「ちょっと! 変なこと言わないで」

「でもなあ」

「でもな~じゃない。もう、この話はおしまい」

声をひそめて、強い口調で、私はカズに注意した。

白いイヤホンを耳に入れ、ipodの再生ボタンを押す。3月に発売されたニューアルバムのお気に入りは、10曲目と12曲目だ。

2010年8月8日、中野サンプラザ。

ハロー!プロジェクトの夏のコンサート「ファンコラ」の、入場列に私はいる。

30℃を軽く超える猛暑のなか、愚痴も言わずに並ぶ人たちには、顔なじみも多い。

しかし私は、彼らの本名も、どこに住んでいて、普段何をしているかも知らなかった。

阪神ファンも、巨人ファンも、Jリーグのサポーターも並ぶ行列。

立場や価値観が異なる人たちが、同じ方向をむいて、色とりどりのケミカルライトを手に盛り上がる。夢のような2時間。

コンサートは、私の元気の源だ。

味方しかいない入場列では、普段できないモーニング娘。の話も気兼ねなくできる。

そんな至福の時間に水を差したのは、カズの余計な一言だった。

「なんか嫌な予感がする。『お知らせ』とかあるんとちゃうか?」

結成13年。

卒業と加入を繰り返しながら進化してきたモーニング娘。は、ここ数年、オーディションをおこなっていない。

メンバーを固定して磨き上げた歌とダンスは最高で、フランス公演も大成功。

新メンバーが入り込む隙なんて、全くないように思える。

(このまま8人で頑張って、いつか解散するのかな?)

カズを叱った私も、心のどこかで、そんなふうに感じていた。

 

9期メンバーオーディションの開催に沸き立った会場が、水を打ったように静まりかえっている。

ステージでは、白銀のスーツを身にまとった、きのこの国の王子様と、白いパンツに白いシャツ、黒いジャケットのプロデューサーが、話を続けていた。

「前回のオーディションから丸4年がたったんですけども、どうして、このタイミングでオーディション開催を決定したんでしょうか」

「はい、そうなんです。気がつけば4年がたっておりまして、まあここのところ『いつオーディションしようかな?』という感じで、タイミングをうかがっておりましたが、実は、卒業するメンバーが決まりましたので」

「ええええええええ!」

 隣のカズが、ここぞとばかりに大声を出す。

「嫌な予感がする。とか言ってたくせに」

そんな私のつぶやきは、彼に届く前に吹き飛んでしまった。

立て続けに発表される、三人の名前。

その中に、私が応援しているアイドルの名前もあった。

彼女は底抜けに明るくて、笑顔が可愛くて、いつもオリジン弁当ばかり食べている19歳。中国からの留学生メンバーは、ソロパートがほとんどなかったけれど、去年の春ツアーのメドレーで任された「青空がいつまでも続くような未来であれ!」の歌い出しに、私はすっかり魅了された。

(シングルで歌割りがもらえるまで辞めないって、言ったじゃない)

心の叫びとうらはらに、拍手をおくる私。

まわりの音が、どんどん遠ざかっていく。

暗いCRYよどみの中、「どうして?」の四文字が浮かんで消えた。

 

 

「えっ? 今どこにいるかって? 気まぐれプリンセスホテルだよ」

スーツにネクタイ、グレーのステンカラーコートを着たサラリーマンが、上機嫌で携帯電話を握っている。

ホテルの前に張り出された満室のお知らせには、「横浜アリーナでおこなわれるイベントのため」という一文が添えられていた。

2010年12月15日、水曜日。

後に「プラチナ期」と呼ばれるようになるモーニング娘。の集大成、「ライバルサバイバル」横浜アリーナ公演が終わった。

「……いいコンサートだったね」

「ああ。むっちゃ良かった」

「私、渡良瀬橋で泣いちゃった」

「甘い甘い! 俺なんか、大きい瞳からの夕暮れ作戦会議、スッピンと涙でボロボロや」

「なに自慢してんのよ」

私はカズと二人、軽口を叩きながら新横浜駅に向かっている。

最終の新幹線には間に合わないので、歩くスピードはゆっくりだ。

「ありがとう」

「俺、なんかしたか?」

「グッズ列。三時間も並んでくれて」

「日替わり(写真)、買えなかったけどな」

この日カズは会社を休んで、横浜アリーナを一周半、ぐるりと取り囲むグッズ列に並んでくれていた。

グッズ列はそのまま入場列となり、会場内のグッズ売り場まで歩いていったという。 

クリスマスに届く速攻DVDの予約列に並んだ私が、客席から見たスマイレージのオープニングアクトを、カズは聴くことしかできなかった。

「グッズ列、悲鳴あがっとったで。人気あるんやなあ」

「うん。かわいかったよ」

「レコード大賞の最優秀新人賞、とれたらええな」

「うん」

「℃-uteの時はおもろかったもんな。最年少のまいまいさんだけ泣かなかったやつ」

「そうだね」

「……」

「……」

「ごめんな」

「えっ?」

「未来を語るの、少し早すぎたわ」

くしゃっと丸めて広げた紙のような表情で、カズが頭をさげる。

私はあわてた。

「違うの。少し考え事しててさ、いやボーッとしていて」

「どっちやねん」

通常営業でツッコむ姿に、少しホッとする。

カズは、腕の銀時計をチラリと見た。

「良いことやったら別にええけど、今夜は考えこまへんほうがええで。夜遅いけど飯でも食って、あったかくして寝るのが一番や」

「うん。ありがとう」

私は、小さな誤解を解いておこうと思った。

「リンリンの手紙のことを考えていたら、『そんなの無理でしょ』って思ってさ」

「……聞かなくてもわかるわ。『みなさん、リンリンより幸せになってくださいね』やろ?」

「そう! それ!!」

私の頬は、少しふくらんでいたと思う。

「いつも笑顔で、先輩みんなから好かれて、ファン想いで……あんな良い子より、幸せになれるわけないじゃん? 『約束だよ』って、かなりの無茶ぶりだと思わない?」

まくし立てる私に、カズはうなずくと、

「幸せになりたい幸せになりたいってずっと思ってると、幸せになりたいだけで終わっちゃうんです。幸せだなぁって思っていると、ずっと幸せのまま過ぎていくんです」

そう言って微笑んだ。

この言葉は、カズが好きなアイドルが残した名言として、モーニング娘。のファンに広く知られている。

彼女もまた、この日を最後に卒業していた。

 

 

2014年11月26日。

4年前、同じステージに立っていた8人のモーニング娘。のなかで最後まで残ったメンバーが、卒業の日をむかえていた。

毒舌キャラでテレビに引っ張りだこだった「カワイイ」アイドルは、美しい大人の女性に成長。偉大なリーダーとして、モーニング娘。の歴史に名を刻む。

私たちはリビングに3人、テレビの生中継にかじりついていた。

ファンクラブから、青い封筒が届いたとき――

「1人で行ってきたら?」

と勧めてみたものの、夫がうなずくことはなかった。

「臨月の妻を家に置いてライブに行ったら、つんく♂さんに『お前、今までハロプロの何を聴いてきたんや?』って叱られるで」

カズの言葉は大げさに感じたけれど、うれしくないと言えば嘘になる。

今日も、テレビの向こうのモーニング娘。を心配する私に、「見てて大丈夫か?」と、声をかけてくれた。

1度目はうれしかったけど、何度も聞いてくるので少しウザったい。

(ハロプロは胎教にいいのよ)

(こんなに凄いライブ、目に焼き付けなくてどうするの?)

心の中でつぶやいて、私は電池式のペンライトを握った。

足をつって動けなくなったリーダーをステージに残して、9人の後輩が花道を歩いていく。

“今の”モーニング娘。の代名詞になったフォーメーションダンス。本当は10人で踊るはずだった立ち位置を、年若いアイドルたちはまるで最初から9人で踊ると決められていたかのように修正した。

「会場にいる人、演出だと思うよね」

「せやな。新たなモーニング娘。の旅立ちに見えるわ」

カズの感想を聞きながら、4年前を思い返す。

リンリンはモーニング娘。を家族に例えたけれど、本当はザイルで結ばれた登山家なのかもしれない……と、私は思った。

日本武道館に、横浜アリーナ。そんな大きな山を、先輩の助けを借りて登った後輩たち。これからは自分の力で、次の山に挑むのだ。入ったばかりの12期メンバーを連れて。

「おお! 走った走った」

カズが手を叩く。

横浜アリーナでは、この日のコンサートで新リーダー就任が発表された9期メンバーが、花道を猛然とダッシュしていた。

彼女はまだ18歳。リンリンが卒業した年よりも若い。

9期メンバーのお披露目イベントで、同期の小学生をフォローしていた姿が、昨日のことのように思い出された。

花道を駆け寄ってきた後輩を迎える先輩の笑顔は、慈愛に満ちている。

伝説のリーダーの後を継ぐ、モーニング娘。史上最年少のリーダーにかかるプレッシャーは、相当なものだろう。

私は、彼女がリーダーになったモーニング娘。も応援していきたいと思った。

 

 

「アカン。なんか緊張してきた」

「なんであんたが緊張するのよ」

私はカズと二人。芝生の上で、ドキドキしながらモーニング娘。を待っている。

4歳の娘は、実家に預けてきた。今ごろはきっと、従兄弟を相手に「眼鏡の男の子」ごっこをしているに違いない。

2019年8月10日。

国営ひたち海浜公園。

日本最大級のロックフェスの、一番大きなステージにモーニング娘。が立つのは、22年の歴史のなかでも、初めてのことだった。

「彼女たちはいつも通りのパフォーマンスをやって、あれだけの熱狂を繰り広げてくれたわけです。まさに、モーニング娘。を、このフェスは『発見』したわけです」

1年前のステージを振り返りながら、熱く語る主催者。そのコメントに、目頭が熱くなる。

「こっちは、どっくに見つけとんねんけどな」

小声でツッコむカズをひとにらみして、私はステージに集中した。

「今日ここに集まったみんなは、このグラスという巨大なステージに立ったモーニング娘。を、何とか勝たせたいっていう人たち。そして、彼女たちの勝利を目撃したい人たち。そういう人たちで、これだけの人がうまっています。みんな彼女たちの勝利が見たい。という想いだと思います」

「いいぞ!」という声が、隣から聞こえた。

「勝たせたいじゃないですか!」という主催者の呼びかけに、自然とわき上がる歓声。KOKOROとKARADAの足並みがそろった拍手は、本当に気持ちが良い。

「大きな声援で迎えてください。モーニング娘。ワンナイン!」

今日もまた、心地よいリズムに包まれる。

こうして私たちは、モーニング娘。がまだ見たことのない景色の一部になった。