相櫻【88】◇風見鶏◇
あれから、もう一件回ると言っていた場所は、野菜の無人販売だった。
いつもは仕事から帰ると、メシ食って風呂入って軽く飲んで寝るって感じだけど。
今日は暑くて、帰りの車中から二人で『とりあえずビールだ!』って、ふざけながら帰ってきた。
「しょーちゃん、お疲れ様~」
「カンパイ!暑かったなー」
缶をコツンとあてて一気飲みする。
エアコンが効いてきて部屋は涼しくなってはいたけど、冷たいビールは格別だった。
「これ、今日買ってきたやつ?」
御膳には、帰りに買った惣菜の他に、トマトスライスとキュウリのたたきが乗っていた。
「あそこのトマトとキュウリ、めちゃくちゃ美味しいの!
あ、塩はこれ使ってね♪」
渡されたソルト瓶の中には、薄いピンク色をした粉が入ってる。
ラベルを見ると、岩塩の文字。
「岩塩、、、こんな洒落たの使ってんの?」
「それ、潤ちゃんに貰ったの。
出張のお土産だって。」
「潤が?ふーん、、、潤がねぇ…」
ちょっと意外だな。
仕事の付き合いはあるにしても、潤が雅紀にお土産を用意していたとは思わなかったし、渡してるところを見たこともなかった。
「潤ちゃん、よく現場に顔出してくれるからね。」
「あー、そっか。。
下請けさんは、あいつがほぼ回してるもんな。
そっか、、、そうだよな。」
「しょーちゃん?」
「ん?」
「妬いてンの?」
「んっ…////」
妬いてるのか?
いやいやいや、仕事の付き合いでしょ?
お世話になってる下請けさんにお土産なんて、潤なら当然って…。
な?
「やっぱ、しょーちゃん妬いてる…」
「妬いてねーし!」
「だって、口尖らしてブツブツ言ってるよぉ?ふふっ♪」
「妬いて、、ねーし…」
「しょーちゃん、おいで…やきもち食べてあげる♪」
やきもちを、、食べる?
ズズっと雅紀のほうへ引っ張られると、抱き締められる。
それから優しいキスが降ってきた。
唇を食むように、軽く軽く口づけされながら、、、、。
「やきもち、バイバーイ…ね?」
バイバーイって、、なんだよ。
妬いてねーし!
妬いてねーからな?
「オレは、しょーちゃんだけだよ…」
抱き寄せられて耳元で言われて、なんだか慰められてる気持ちになる。
妬いてた、、のか?
「しょーちゃんだけ…」
「うん、、、、っっ、、ちょ…」
雅紀の唇が首筋をなぞっていく。
耳の回りから首筋を何度もいったりきたり…。
「まさっ、、、シャワーしてねぇ、、、
っ…汗っ、汗かいて、るからっ…」
「しょーちゃんの汗は汚くないよ…」
お前はエロオヤジか!
と思いつつ、そんな風に言われたことが不思議と嬉しくて、俺も相当なもんだよな。
けど、今日の汗はハンパないのは知ってる。
力付くで雅紀の身体を押し退けて逃げた。
「しょーちゃん、、なんで?」
「なんでじゃねぇよ…
汗かいたから、やなんだよ。」
「しょーちゃんは綺麗だよ?
オレが汚しちゃったらシャワー浴びていいけど。
汗ぐらい気にしなくていいのに。」
オレが汚しちゃったら・・・///
って、そういうことだよな?
サラっとなんてこと言うの?
「じゃっ、、じゃ、腹減ってんのっ!」
すげー、苦し紛れの言い訳だけど。
これなら雅紀が引き下がるはず。
「ふふ、、じゃ、ご飯食べてからね♪」
俺は、雅紀が酔い潰れる作戦を練ることにした。
…つくだに…