笠原小百合の「つれづれ一句鑑賞」~初電車ひと家族分空く座席~ | DEN

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「田」俳句会のブログ

初電車ひと家族分空く座席  倉持梨恵

(『俳句四季』2月号・精鋭16句「幾何学模様」より)

 

新たな年の最初に乗った電車にて。

とある駅に停車すると、ロングシートの座席がごそっと空いた。

そこに座っていた家族とおぼしき全員が、同じ駅で一斉に降りたのだ。

「ひと家族分」だから、4人か5人か。

子と両親、祖父母も入れるともっと多い人数かもしれない。

一気に座席が空いた驚きと、それが家族だという納得感。

その何気ない発見を巧みに俳句へ落とし込んでいる。

よく観察されている句だと思う。「ひと家族分」が掲句の眼目だろう。

 

「初電車」が非常に効いている。

効いているというより、「初電車」の本意をきちんと理解し、表現されているとでも言うべきだろうか。

 

家族全員で電車に乗る機会は、普段なかなか訪れないものだ。

その「ひと家族」はこれから初詣に向かうのか、それとも初旅の途中か。

家族と一緒に行動することの嬉しさや気恥ずかしさに、新年ならではのめでたさが重なる。

家族全員が降りたあと、座席に差し込む穏やかな光まで見えてくる。

やさしさとあたたかさに満ちた、心がほっと落ち着くような一句。

それはそのまま、作者の視線、心のやさしさの表れなのである。

 

(2020年元日、浅草駅にて初電車を待つ息子。丸一年以上帰っていないので、栃木の田舎が恋しいです)

 

笠原小百合 記