「アンダークラス」という言葉がある。
パート主婦や年金生活の高齢者などを除いた、個人年収の最下層クラス。
非正規雇用が多く、収入が低い。
僕は20代から30代前半まで、ほぼこの層にいた。
20代前半の手取りは約10万円。
ボーナスなし。
年収150~180万円くらい。
仕事はスポーツクラブのインストラクターのアルバイト。
今は上場企業で管理職をしているので、当時の僕しか知らない人が今の状況を見たら、
「ずいぶん変わったな」
と思うかもしれない。
でも、ここまで来るのに15年くらいかかっている。
今日は、自分がどうやってアンダークラスに落ちて、どうやってそこから抜け出したのかを書いてみる。
「アンダークラス」から這い上がるまでに15年かかった
年収150万円の生活
20代前半。
手取り約10万円。
当然、一人暮らしなんてできないので、24歳まで実家に住んでいた。
ただ、いい歳した男がアルバイトしながら実家に住んでいることがだんだん恥ずかしくなってきた。
とにかく肩身が狭い。
だから25歳のとき、知人2人と3人でルームシェアを始めた。
もちろん金はない。
食事はほぼ自炊。
スーパーで100g99円の豚肉のこま切れを買い、一袋20円くらいのもやしと一緒に炒める。
以上。
外食なんてほとんどしなかった、というかできなかった。
休みの日もあまり外に出なかった。
金を使いたくなかったから。
でも、理由はそれだけじゃない。
人に会いたくなかったのだ。
貧乏よりキツかった「恥ずかしい」という感情
金がないこと自体は、意外と耐えられる。
豚肉ともやしでも死なない。
服なんて買わなくても生きていける。
一番キツかったのは、
「自分は社会の下のほうにいる」
という感覚だった。
同級生は就職して会社員になっている。
結婚する奴も出てくるし、給料も上がっていく。
一方の僕はアルバイト。
年収150万円。
何者でもない。
人に会うと、自分の現状を説明しないといけない。
「今何してるの?」
この質問が嫌だった。
だから人に会わなくなる。
友達にも会わないし、親戚にも会いたくない。
「いい歳して何やってんの?」
そう思われているような気がしていた。
今考えると、これがかなりマズかった。
底辺にいると、人間関係まで壊れていく
人間関係を作る能力もスキルだと思う。
つまり、使わなければ衰える。
僕は20代という、本来なら社会人として人間関係を作る経験を積む時期に、人を避けてしまった。
人と会うのが怖い。
↓
家に閉じこもる。
↓
コミュニケーション能力が落ちる。
↓
さらに自信がなくなる。
↓
もっと人と会いたくなくなる。
完全に負のループ。
さらにこの状態が続くと、
「もうどうでもいいや」
となってくる。
服なんてどうでもいい。
髪型もどうでもいい。
食事もどうでもいい。
部屋もどうでもいい。
人生そのものがどうでもよくなる。
軽いセルフネグレクトみたいな状態だったと思う。
金がないから自信がなくなる、自信がないから行動しない、行動しないから能力が上がらない。
能力が上がらないから収入も上がらない。
このループにおちいるとヤバいのだ。
そもそも、なぜ僕はアンダークラスになったのか
世の中には、自分ではどうしようもない事情で低所得になっている人がいる。
病気。
障害。
家庭環境。
介護。
その他いろいろな事情で、本人の努力だけではどうにもならないケースは当然ある。
では僕はどうだったのか。
特に大きな病気はなかった。
親も普通に働いていた。
大学にも行かせてもらった。
じゃあ、なんで年収150万円になったのか。
それはかなりの部分、自分のせいだった。
大学時代、就活をほとんどしなかったのだ。
というか、就活している同級生をどこかで馬鹿にしていた。
「みんな同じ格好して就活して何が楽しいんだ」
「俺はそんな人生は嫌だ」
「俺はプロサッカー選手になる」
本気でそんなことを考えていた。
ちなみに当時所属していたのは県リーグ2部の弱小クラブ。
・・・無理だろ。
今ならわかるが、当時はわからなかった。
「俺は人とは違う」の正体
なぜそんな意味不明な自信があったのか。
今振り返ると、むしろ逆だったと思う。
自信がなかったのだ。
周囲より劣っていると認めるのが怖かった。
就活したら、自分の能力を評価される。
落とされるかもしれない。
周囲との差を見せつけられるかもしれない。
それが怖い。
だから、
「俺は劣っているんじゃない」
「お前らとは違う道を進んでいるだけだ」
と思いたかった。
就活する同級生を見下して、
「俺は夢を追う」
と言って逃げた。
そして手取り10万円のスポーツインストラクターになって、見事にアンダークラス入り。
今考えると、僕の「あまのじゃく」の正体は、かなりの部分が劣等感だったのだと思う。
そこから15年かけて抜け出した
当然、プロサッカー選手にはなれず、夢は終了。
そこからしばらく無為な時間を過ごした。
でも、
「このままじゃマズい」
という感覚だけはずっとあった。
そこで資格を取ろうと考え、学校に入り直し、資格を取ることになる。
病院に就職し、その後また転職して営業職に。
営業でも最初は全然結果が出なかった。
それでも続けた。
そんなことを繰り返して、気づけば年収は日本の平均を超え、今は上場企業で管理職をしている。
別に大金持ちになったわけではないし、人生の勝ち組になったとも思っていない。
でも少なくとも、
「手取り10万円で、金がなくて、人に会うのが恥ずかしくて家に閉じこもっていた頃」
からは抜け出した。
なぜ抜け出せたのか考えてみると、理由は大きく2つあると思う。
①親がアンダークラスではなかった
これはかなり大きい。
僕の親世代はホワイトカラー層だった。
だから子供のころから極端な貧困状態ではなかった。
そのため、自分が年収150万円で生活していたとき、
「これが普通の人生だ」
とは思わなかった。
「俺は今、かなりマズいところにいる」
という感覚があった。
この違和感は重要だったと思う。
さらにもっと重要なのが、
資格を取るために親から金を借りられたこと。
これがなかったらどうなっていたかわからない。
学校に入り直すにも金がいる。
資格を取るにも金がいる。
転職するにも金がいる。
貧困から抜け出すためには、何かしらの初期投資が必要になることがある。
でも貧困状態にいる人ほど、その初期投資をする金がない。
これはかなり残酷な構造だと思う。
僕はたまたま親から借りることができた。
だから、「努力して這い上がりました」だけで片付けることはできない。
身もふたもない話だが、環境に恵まれていることも重要なのだ。
②「今に見てろ」という気持ち
もう一つが、リバウンドメンタリティ。
要するに、
「今に見てろよ」
という感情のことだ。
僕は小さいころから背が低かくて、いじめられていた。
自信がなかった。
女性ともまともに話せなかった。
20歳を過ぎても童貞で、周囲から魔法使いなんて呼ばれていた。
当然、自信なんてなくなる。
でも同時に、ものすごく腹が立っていた。
自分を馬鹿にした奴を見返したい。
舐めてきた奴を見返したい。
いつか絶対に逆転してやる。
そんな感情がずっとあった。
決して健全なエネルギーではない。
むしろかなり歪んでいる。
実際、その歪んだエネルギーによって、
「就活なんてくだらない」
「俺はプロサッカー選手になる」
と意味不明な方向に走った。
だからこの感情のせいでアンダークラスになったとも言える。
でも面白いことに、
そこから抜け出すときにも同じエネルギーを使った。
「このまま終わってたまるか」
「今に見てろ」
「絶対に這い上がる」
資格を取ったときも。
転職したときも。
営業で結果が出なかったときも。
結局、僕を動かしていたのはこれだった。
「努力すれば誰でも這い上がれる」とは思わない
ここは勘違いしないようにしたいのだが、僕がアンダークラスから抜け出せたのは、努力だけのおかげではない。
親から金を借りることができた。
健康だった。
学校に通うこともできた。
働くこともできた。
そういう条件があった。
同じことを誰でもできるとは思わない。
だから、「貧乏なのは努力不足」なんて単純な話ではない。
ただ、条件が揃っていても、自分から動かなければ何も起きない。
親から金を借りられる環境があっても、学校に入り直さなければ何も変わらなかった。
資格を持っていても、転職しなければ何も変わらなかった。
営業でボロクソに言われたときに辞めていたら、今のポジションにはいなかった。
環境だけでもダメ。
努力だけでもダメ。
大切なのは、どん底の環境に置かれたときに、それでも努力しようと思えるメンタリティなのだ。
這い上がるのに15年かかった
22歳くらいから始まったアンダークラス生活。
そこから資格を取って、就職して、転職して、営業になって、
仕事ができなくて、
また這い上がって・・・
15年くらいかかった。
長すぎ。
もっと効率のいい人生はいくらでもあったと思う。
普通に大学時代に就活して、普通に会社員になっていれば、こんな遠回りをする必要はなかったかもしれない。
でも、あの15年間が全部無駄だったかというと、そうとも思わない。
年収150万円で豚肉ともやしを食っていた時代があるから、今の生活を当たり前だと思わない。
人に会うのが恥ずかしくて引きこもっていた時代があるから、人間関係も意識して鍛えようと思える。
仕事ができず、金もなく、女にもモテず、
「自分は何者でもない」
と思っていた時代があるから、今でも上に行きたいと思える。
僕にとって「這い上がる」というのは、一発逆転することではなかった。
資格を取る。
仕事を変える。
失敗する。
また考える。
もう一度動く。
これを何年も繰り返しただけ。
人生はRPGみたいに、ある日突然レベル50にはならない。
レベル1から、
2、
3、
4、
と上げていくしかない。
クソみたいに時間がかかる。
僕は15年かかった。
それが良かったのか悪かったのかは、いまだにわからない。
ただ一つだけ言える。
あのとき、
「もう俺の人生こんなもんだろ」
と諦めなくてよかった。
年収150万円だった25歳の自分が、今の自分を見たらどう思うのだろう。
たぶん、
「まあまあ、這い上がったじゃん」
くらいは言ってくれると思う。
まだ途中だけど。

