お米がおいしくないとき、私たちはまず米を疑います。

品種なのか。
産地なのか。
新米なのか、古米なのか。

では、

炊く「水」を疑ったことはあるでしょうか。

同じ米。
同じ炊き方。

変えるのは、水だけ。

それでも、ご飯の味は変わるのでしょうか。

著者は、水と食の関係を調べる中で、この疑問を実際に確かめようとしました。




米ではなく、水を変えて炊いてみる

著書に記されている実験は、考え方としては非常にシンプルです。

同じ米を使い、

一方は通常の水道水。

もう一方は、セラミックスを浸漬した同じ水道水。

米ではなく、炊飯に使う水の条件だけを変えて比較する。

著書によれば、この比較は日本穀物検定協会で行われ、20人の官能試験官によって評価されたとされています。

そして著者は、同じ米を使っていても、水の条件を変えることで味の評価に違いが出たと記しています。

ここで重要なのは、

「高級な米に変えたから、おいしくなった」

という話ではないことです。

米は同じです。

変えたのは、水でした。


炊いたご飯の約55%は「水」

なぜ著者は、そこまで水に注目したのでしょうか。

その理由を考えるうえで、興味深い数字があります。

著書では、炊き上がったご飯の約55%が水だと説明されています。



普段は「米を炊くために水を入れる」と考えます。

しかし、炊き上がったご飯の姿から考えれば、

水は単なる調理の補助ではありません。

完成したご飯を構成する大きな一部です。

そう考えると、

「どんな米を使うか」

だけでなく、

「その米に、どんな水を吸わせるか」

という視点が出てきます。


古い米ほど、変化が大きかった

さらに著者は、米問屋と長期間にわたって実験を続けたと記しています。

そこで見えてきたのが、

新しい米では変化が比較的小さく、古い米ほど変化が大きかった

という傾向でした。

著者はその理由について、

古い米は水分量が少なくなっているため、炊飯時により多くの水が入ることと関係しているのではないか、と考えています。

もちろん、この記述だけで、

「水を変えれば、すべての古米がおいしくなる」

と一般化することはできません。

ただ、この実験は面白い問いを残します。

私たちが「米の差」だと思っているものの中に、実は水の差も含まれているのではないか。


高い米を買う前に、水を見る

おいしいご飯を食べたい。

そう思ったとき、多くの人は米を変えます。

少し高い米を買う。
ブランド米を選ぶ。
新米を探す。

もちろん、それも一つの方法です。

でも著者の研究は、違う方向から問いを投げかけます。

米を変える前に、水を変えてみたらどうなるのか。

酒では、水とアルコールの混ざり方に目を向けた。

米では、米が吸収する水に目を向けた。

対象は違っていても、

中身だけではなく、その状態をつくっている条件を見る。

そこには共通した考え方があります。


古い米を、おいしく食べられたなら

この研究には、味以外の可能性もあります。



著者は、古い米をおいしく食べられるようになれば、

安価な米の活用や、フードロスの削減にもつながるのではないかと考えています。

新しいものへ交換する。

より高いものを買う。

それだけが、価値を上げる方法ではありません。

すでにあるものの力を、どう引き出すか。

水の研究から見えてくるのは、そんな発想です。


同じ米なのに、水を変えると結果が変わる。

だとしたら、

私たちが日常で「素材の差」だと思っているものの中に、

本当はまだ見ていない条件があるのかもしれません。

「米の味は、米だけで決まる」

その前提から疑ったところに、この実験の面白さがあります。


【次回】

炊飯の水だけではなく、

発芽から収穫まで、水そのものを変えたらどうなるのか。

米、柿、そして蕎麦。

次回は、さらに食と水の可能性を追っていきます。