同じお酒なのに、時間が経つと味が変わる。

よく考えると、不思議です。

できたばかりの酒と、何年も寝かせた酒。
中に入っているものが突然、別のものに入れ替わるわけではありません。

それでも、飲んだときの印象は変わる。

刺激が強かった酒が、時間とともに丸く感じられることもあります。

では、その間に何が起きているのでしょうか。

著者は、水の研究を続ける中で、酒の「熟成」にも目を向けました。

そして、もう一つ気になったものがあります。

酒を入れている「器」です。




新しい酒と、熟成した酒

酒は、水とアルコールなどが混ざり合った液体です。

著者は、できたばかりの酒について、水とアルコールがまだ十分になじんでいない状態として考えています。

そのため、新酒ではアルコールの刺激を強く感じる。

一方、時間をかけて熟成した酒では、その刺激が少しずつ丸くなっていく。

本の中では、泡盛が例として登場します。

新しい泡盛では、アルコールの強い刺激を感じる。
しかし、長く熟成したものになると、口当たりが柔らかく感じられる。

もちろん、酒の味は一言では説明できません。

ただ著者は、この違いを考えるとき、成分表だけを見るのではなく、水とアルコールがどんな状態で存在しているのかに目を向けました。

ここが面白いところです。


水とアルコールは、どう混ざっているのか

これまでの記事では、水分子が集まって「クラスター」と呼ばれる集団をつくる、という著者の考えを見てきました。

今回は、その視点が酒へ広がります。

著者は、セラミックスから放射される赤外線によって分子運動が活発になり、水とアルコールの混ざり方にも変化が起こる、と説明しています。

そして、アルコール分子の周囲に水分子がよりなじんだ状態になることで、飲んだときの刺激にも違いが出るのではないか、と考えました。



この部分は、一般的な科学法則として紹介しているわけではありません。

著者自身が行ってきた実験や研究から組み立てた考えです。

本の中には、新酒の泡盛を使った実験も出てきます。

著者は、自身のセラミックス技術を用いることで、熟成の進み方に変化が見られたと記しています。

時間をかければ起こる変化を、別の方法でも起こせるのではないか。

この発想は、その後の研究にもつながっていきます。


なぜ昔から「壺」や「甕」が使われてきたのか

酒の話をしていると、もう一つ疑問が出てきます。

なぜ昔から、酒は壺や甕、瓶などに入れられてきたのでしょうか。

もちろん保存のためでもあります。

ただ著者は、それだけではなく、器の材質そのものにも注目しました。

本の中でも、壺に入れたワインや、甕に入れた焼酎の話が登場します。

「器は、ただの入れ物なのか」

そう考えたわけです。

水だけを見る。

次に、その水が入っている器を見る。

さらに、その二つの間で何が起きているのかを見る。

研究というのは、こうやって少しずつ範囲が広がっていくのかもしれません。




同じビールなら、どちらで飲みたいですか

ここで少し身近な話です。

同じビールを、

ガラスのコップと、紙コップ。

どちらかに入れて飲むとしたら、どちらを選ぶでしょうか。



中身は同じです。

同じ瓶や缶から注げば、成分も変わりません。

それでも、ガラスを選ぶ人は多いかもしれません。

著者はここから、

「味は、本当に舌だけで決めているのだろうか」

と考えます。

これはかなり面白い問いです。

食べたり飲んだりするとき、使っているのは舌だけではありません。

鼻でも感じる。

手で器に触れる。

その状態で、味を感じています。

そう考えると、「おいしい」という感覚は、思っているより単純ではなさそうです。


「おいしい」は、どこで決まるのか

料理の話になると、

「何が入っているか」

に目が向きがちです。

塩分はどれくらいか。

糖分はどうか。

どんな材料を使ったのか。

もちろん、それも大切です。

でも同じ料理でも、器が変わると印象が変わる。

同じ飲み物でも、器によって感じ方が違う。

そういう経験は、誰にでも一度くらいあるのではないでしょうか。

だとすると、

「おいしい」は舌だけの問題ではない。

著者は、そう考えていきます。


水を見ると、その周りまで見えてくる

第1回から、水を追ってきました。

水分子。

クラスター。

表面張力。

温度による分子の動き。

最初は「水そのもの」の話でした。

でも、水だけを見続けていると、いつの間にかその周りも気になってきます。

酒なら、アルコール。

飲み物なら、器。

食べ物なら、調理に使う水。

一つ疑問が解けると、また次の疑問が出てくる。

たぶん、研究はその繰り返しです。

そして今回、一番残った問いはこれでした。

「おいしい」は、何で決まるのでしょうか。

舌なのか。

香りなのか。

器なのか。

それとも、それらを全部含めて「味」なのでしょうか。

まだ、簡単には答えを出せそうにありません。

水から始まった話は、ここから少しずつ「食」の世界へ広がっていきます。

次回は、

同じ米でも、水を変えると味は変わるのか。

もう少し、身近な食べ物から水を考えてみます。