前回は、同じ米でも、炊くときに使う「水」を変えることで、味に違いが生まれるのかを見てきました。


では、水を変えるのが「炊くときだけ」ではなかったら?


種を目覚めさせるとき。
芽を出すとき。
そして、育っていくとき。


食べ物ができるまでの過程そのものに使う水を変えたら、何が起きるのでしょうか。


著者は、その疑問を農業の現場へと広げていきました。




炊飯から、米づくりそのものへ

前回紹介した実験では、同じ米でも、セラミックスを浸漬した水道水を使って炊飯すると、味の評価に変化が見られたと著書に記されています。


特に古い米ほど変化が大きく、著者はその理由の一つとして、古い米は水分量が少ないため、炊飯時により多くの水を取り込むことを挙げています。


ここから実験は、さらに先へ進みます。


炊くときの水だけでなく、米を育てる最初から最後まで水を変えたらどうなるのか。


籾を水に浸して発芽の準備をする段階から、田んぼで育てる過程まで、セラミックスを使った水を利用する実験が行われました。


著書では、この方法で育てた米を「スーパー米」と表現しています。


そして、この米について、全国食味コンテストで優勝したと記されています。



籾を水に浸したときに起きた変化


米づくりは、籾を水に浸し、発芽の準備をするところから始まります。


著書によれば、通常の水に比べ、セラミックスを浸漬した水では濁りが強く見られました。


さらに、


籾が水をよく吸収して膨らみ、発芽率が向上し、発芽のタイミングも揃った


と記録されています。


前回は「炊飯」という最後の工程に注目しました。


しかし、この実験で見ているのは、それよりずっと前。


植物が育ち始める段階から、水がどのように関わるのか。


著者の関心は、そこまで広がっていきます。


米だけではなかった


実験の対象は米だけではありません。


著書には、10年以上実を付けなかった柿の木に、この水を与え続けたところ実を付けたという体験が紹介されています。



さらに、人参を主に栽培する農家でも使われたと書かれています。


著者がここで考えていたのは、単に「おいしくすること」だけではありません。 


農業という大変な仕事の負担を、少しでも減らせないか。


高齢化が進む農業の現場に、水の研究から何か貢献できないか。


そうした視点も原稿から見えてきます。


そして、蕎麦へ



水の影響を考えるうえで、非常にわかりやすい料理があります。


蕎麦です。


麺を打つときにも水を使いますが、著者が特に注目したのが「つゆ」でした。


原稿に登場する岡山県倉敷市の蕎麦店では、昆布、いりこ、椎茸などを水に入れ、時間をかけて仕込み、さらに鰹節や「かえし」と合わせて寝かせる工程が紹介されています。


通常は、つゆを約7日間寝かせて熟成させていたそうです。


ところが著書では、セラミック技術を使うことで、その期間が約3日に短縮されたと記されています。


著者はその理由について、つゆの大部分を占める水と、さまざまな旨味成分が、より早く混ざり合うためではないかと考えています。


これは、第4回で紹介した「酒の熟成」ともつながる考え方です。


「寝かせる」とは何なのか


料理ではよく、


「一晩寝かせる」
「数日寝かせる」


という言葉を使います。


では、なぜ時間を置くのでしょうか。


著者は「寝かす」という工程を、水とさまざまな成分が自然に拡散・混合し、まんべんなく分散していくこととして捉えています。


もし、その混ざり方に水の状態が関係しているのなら。


熟成に必要な時間そのものにも、変化が起きる可能性があります。


実際、蕎麦つゆについては、熟成期間が短くなったことで、生産量を増やせる可能性にも著者は触れています。


水は、本当に脇役なのか


米。
柿。
人参。
蕎麦。


まったく違う食べ物に見えます。


しかし、そこには共通して「水」があります。


水は、料理するときに加えるだけのものではありません。


植物が芽を出し、育つ過程にも使われる。


食材を煮るときにも使われる。


そして、つゆを寝かせ、味をまとめていく過程にも関わっています。


私たちは食べ物を見るとき、


「どんな品種なのか」
「どんな食材を使っているのか」
「どう調理したのか」


には目を向けます。


でも、そこで使われている水について、どれほど考えているでしょうか。


良い米。
良い食材。
職人の技。


そこには当然、大きな価値があります。


ただ、そのすべてに関わっている「水」を、私たちは見落としているのかもしれません。


もし水が、単なる脇役ではないとしたら。


食べ物を見る基準そのものが、少し変わってくるのではないでしょうか。


第5回では「同じ米でも、水を変えたらどうなるのか」を見ました。


第6回では、さらにその先へ。


食べ物ができる過程そのものを、水という視点から見直してみる。


著者の実験は、そんな問いを私たちに投げかけています。


次回は、いよいよ第3章へ。


水を変えるという発想は、実験や食品の世界から、ひとつの「技術」へと進んでいきます。


「デン・テスラの水処理特許」


セラミックスと赤外線を、どのような考え方で水処理技術へ結びつけたのか。


次回、詳しく見ていきます。