3.理由不明ないしは無意識召喚型

すでに見てきたように、典型的な召喚型と典型的な転生型にはそれぞれ、意識しないかぎり足をすくわれてしまう構造的といっていい問題があります。

これを回避するために発達したらしい型が「理由不明ないしは無意識召喚型」です。主人公が現世の姿のまま異世界に転じるという意味では召喚型なのですが、誰によって召喚されたかが不明であったり、そもそも誰かが召喚したのかどうかも不明なまま話が展開していく型です。

無意識召喚というのは、このタイプの話は結果から見て彼はこの人たちの無意識的な願いに合っていたからこそ異世界に呼ばれたのだろうなという展開になるために付けました。

理由不明型としては、異世界ものではありませんが、例えば「子連れ狼」や大佛次郎の「鞍馬天狗」のように、結局なんのために戦っているのだろうという展開もありえそうに思います。召喚された理由を求めて戦いさまようけれども、結局、転生先でも自分の人生に意味なんてないのかもしれないという救われない展開です。

ただ、アニメでそんな展開になることは(制作費の多額さを思えば)あまりなさそうですので、今の時点では「理由不明ないしは無意識召喚型」としてゆるくつないでおこうと思います。

このタイプ、名前から一見して、手抜きでいい加減な型のようですが、以下のような大きなメリットがある上に、このパターンが成り立つためには、「標準異世界」と「異世界召喚」の両方が召喚される人と視聴者の双方にとって特に説明がいらないぐらい「普通の話」になっている必要があります。

なお、理由もなく召喚されるのが「根っからのゲーマーである成人男性」である場合があります。「異世界おじさん」や「骸骨騎士様、只今異世界へお出掛け中」がそうで、主人公自身の願望により異世界に移動した感じがあるなど、別カテゴリーにすべきではないか迷っているのですが、現時点では保留としてこの型に入れておこうと思います。


この型には次のような重要な特徴ないし利点があります。それは、

A.「普通の人」を「普通の人」のまま主人公にできる

B.主人公のチートがゲーム的な意味でのチート(攻撃や防御、転移などの魔法やすごい剣術など)ではない

C.標準異世界に放り出された主人公は、比較的早い段階で後に重要になってくる誰かと出会い、一緒に行動するようになるが、その関係は相補的であり、どちらかが優位であるわけでもなければ、一方的な道具であるわけでもない、人格的関係であること


まずA.ですが、典型的な召喚型では、主人公は「チートの器」であって、性格というほどのものを持ちません。一方、転生型では主人公には前世で形成された特異な人格があることが普通で、小説やせめて漫画ならともかく、アニメでは広い共感を集めにくい人物になりがちであることは前回書きました。

これに対しこの型では、子供でもなければ特異な性格の持ち主でもない「普通の人」を主人公に設定することが容易というか普通です。このメリットは説明不要かと思います。


B.ですが、この型の主人公はゲーム的な意味でのチートを持たないことが多いです(「骸骨騎士様、只今異世界へお出掛け中」のように、本人が前世で獲得していた過剰すぎるチートを持つ場合もあります。)。

これは、主人公が特定の誰かによって特定の目的のために召喚されたわけではないことも理由でしょう。

ただし、こちらの世界の普通の人が、その普通のままで突然放り込まれた異世界で生きていくことは難しいですから、異世界で生き残るために必要な「何か」を必ずもっています。また「普通の人」といいながら異世界で生きていくために適合的な性格の持ち主であることも必要でしょう。

具体例としては、

・死ぬことで特定のセーブポイントまで戻る能力+かなり高いレベルのコミュニケーション能力(「Re:ゼロから始める異世界生活」)

・ネットスーパー+鑑定+アイテムボックス+商人的センス+目立たないように器用に迎合して生きるサラリーマン根性(「とんでもスキルで異世界放浪メシ」)

・前世ではそれなりに有能な便利屋で頭も良い努力家+おとなしく真面目な性格+魔法的なチートなし(「便利屋斎藤さん、異世界に行く」)

などがあります。どれもよく考えたなと感心する設定ですが、この型以外では使いにくいだろうと思います。


C.ですが、典型的な召喚型では、主人公は自分を呼び出した誰かの元で特定の目的のために戦うことが存在意義ですから、ドラマはその線に沿って進んでいきますし、典型的な転生型では、主人公は自分が選んだ転生の目的に沿って、自分の人生を選択的に形成していきます。

これに対しこの型では、普通の人として平穏に生きてきた主人公は、事情がわからぬまま異世界に放り出され、そこで誰かと出会い、助け合いながら冒険をしていきます。

つまり「未知との出会い、そして冒険」がこの型ならできるわけです。

この型に問題があるとすれば、主人公が特定の女性と出会うことによって、いつの間にか遍歴をやめてしまい、一種の恋愛ものになってしまうことでしょう。

この危険については次回まとめるつもりですが、今シーズンで最大の人気作になった「とんでもスキルで異世界放浪メシ」がこの危険をさりげなく回避しているのはお見事です。

ネットスーパーという卓抜なスキルばかりが注目されますが、この作品、主人公の本能的な権力回避のステップも見事ですし、伊達にヒットしたわけではないなと思います。