騎士道ものの考察の続きとして、召喚型・転生型の構造的な難点と、そこから発展したらしい第三の型についてまずまとめて、恋愛や遍歴のことについては後回しにします。


1.召喚型の構造的行き詰まり

標準異世界チートものの原型は転生型ではなく召喚型のようです。

このタイプの物語がもともとゲームの小説・漫画化であることから来るものでしょう。エルフであることが多い美少女か、王族ないし魔法使いの召喚により、チートをもった主人公が、その召喚の目的にしたがって魔物や悪い騎士団などを倒し、勝利をおさめる、これがゲームの基本的な筋立てです。

ゲームとは異なり、固定され性格を与えられたメインキャラがいないと物語にはならないため、主人公としては一般に、標準的なゲーマーである普通の中高生か大学生(浪人生を含む)、若いニートの男性などを設定されることが多いようです(主人公が女性の場合もありますが、これまで考えてきた標準異世界ものとはまったく違う展開になることが普通なので、ここでは考察の対象にはしません。)。

しかし、召喚型には物語の設定としては重大な欠点があります。

召喚というのは、主人公は特定の目的達成のための「道具」として呼ばれるということですよね。

召喚者の目的達成のために戦っているあいだはそれでいいのですが、ゲームとちがい、物語には「勝利の後」があります。

勝利という目的の達成により、召喚された勇者は無用というか厄介で危険な存在になります。ロシア革命やベトナム帰還兵のことを思い出していただくとわかりやすいです。

目的達成の後に、召喚者がこの「道具」に対して取るべき選択肢は、「殺してしまう」か「元の世界に返す」かのいずれかです。しかし、それ以外の選択肢は召喚者やその世界を滅ぼす可能性をもちますからね。

しかし、召喚された主人公としてはどうでしょう。

この「勝利の後」問題を先延ばしにするため、「より強力な敵」を重ねていくというやり方があります。最終的に宇宙の支配者とかと戦うことになるあれですが、作家さんの想像力の無駄使いになってしまうことが多いと思います。

一般的傾向としては召喚型を避けるようになっているらしいことは理由があると思います。

もっとも、「盾の勇者の成り上がり」のように、召喚型にもかかわらず主人公が放逐されて物語がはじまるとか、「とんでもスキルで異世界放浪メシ」のように、サラリーマン的な保身にたけた主人公が、自分からうまく召喚状況から逃げ出してしまうという巧みな展開のものなど、召喚型の問題を逆手にとって物語を作る方向が出てきているのは面白いなと思います。

なお、こうした召喚型の問題について、「盾の勇者」と「転生したらスライムだった件」の2作品は、設定からも、慎重に考え抜いた上で作られたらしいことがうかがわれます。興味のある方はこの2作品の「主人公以外の召喚された者」の設定について注意して視聴されると面白いと思います。