SDGs流行りの昨今、農業すら否定して自然の恵みのみで生きてみたいと思っている人もおられるかもしれません。
そこで今回は、自然の恵みだけで必要なカロリーを満たすにはどのぐらいの頑張りが必要なのかを考えてみようと思います。
自然の恵みといってもいろいろですが、野生の果物、たとえばグミやヤマグワ、アケビなどの実だけで生活するのはまず無理ですし、手頃なサイズに育った自然薯もそうやたらには生えていないでしょう。魚には漁業権の問題もあります。
自然に存在していて、それほど手間をかけずに食べることができ、カロリーの高いものというと木の実ということになりそうです。
森の木の実というとき、すぐに思いつくのは栗、クルミ、栃の実などですが、栗やクルミはどちらかといえば栽培植物ですし、栃の実はかなりの手間をかけて渋抜きをしないと食べられません。
ブナの実がたくさん入手できるようならそれに越したことはないかもしれませんが、入手できる地域が限られる上、クマなど野生動物の大好物ですから、採取に際してはクマと戦うことになります。結局、実際に可能かもしれない候補は椎の実にしぼられることになると思います。
次に、どんな生活を想定するかです。木こりやマタギのようなあり方も魅力的だと思いますが、現代の木こりやマタギは文明の利器で武装していますよね。仙人や修験道の行者のほうが、よりワイルドかつ脱炭素なあり方のような気がします。
そこで今回は修験道の元祖であり、日本を代表する仙人でもある役行者をモデルに考えてみることにしました。
山歩きが趣味の方にとって、役行者は滝などにお祀りされているあの方としておなじみかと思います。
役行者の食生活はもちろんのこと、身長、体重についてはまったくわかりませんが、なんとなく、非常に筋肉質で細身の小柄な方かなという印象があり、体重55kgと想定してみることにします。
また、役行者のふだんの生活は「山を歩きながらの修行」で間違いないでしょうから、消費カロリーを計算する場合、山歩き(METs:8-10)、または時速8-10kmぐらいのランニング(METs:8-10)ですので、METs:9.0で計算してみることにしましょう。
消費カロリーの計算式は、
消費カロリー(kcal)=METs×体重(kg)×運動時間(h)×1.05
ですので、あとは修行時間を何時間にするかですが、これは10時間とします。
以上から、役行者の一日の修行のための消費カロリーは、5,197.5kcalつまりだいたい5,200kcalぐらいということになります。
これに基礎代謝に必要な1,600kcalを加えると、役行者の一日の必要なカロリーはだいたい6,800kcalという計算になります。ビッグマック1個が525kcalですから、ビッグマック換算でだいたい13個ぐらいです。
一方、椎の実ですが、椎の実のカロリーは100gあたり252kcalとのこと。以上から、役行者の一日の必要カロリーを椎の実のみから取る場合、2.7kgほどが必要ということになります。
入手しやすくかつ食べられる椎の実といえば、スダジイかツブラジイ、マテバシイです。ちょうど今が採集の季節なので実際に集めてみました。
左の写真の小さい方がスダジイで、右の写真の大きいほうがマテバシイです。ツブラジイは近くに生えていなかったため入手できませんでした。スダジイの半分ぐらいのかわいいやつです。
重量を計ってみたところ(10個の重さを計量したものの平均です)、
殻付きのスダジイ1粒の重さは0.8gぐらいで、可食部位だけだと0.6gぐらい
殻付きのマテバシイ一粒の重さは3gほどと、スダジイよりずっと大きいのですが、殻が固く厚いこともあって、可食部は一粒につき1.6gぐらい
つまり、役行者は殻付きの状態のスダジイなら一日4,500個、同様に殻付きの状態のマテバシイなら一日1,700個ほどを用意しておく必要があるということになります。ツブラジイだとスダジイの半分ほどの大きさですので、一日あたり8,000個ぐらい必要になりそうです。一年分だとスダジイなら1.3tぐらいです。
ただ、マテバシイは渋いので、たくさん食べようと思えば渋抜きの必要があります。役行者を目指す場合でも、スダジイかツブラジイにしておいたほうが良さそうです。
この量を見ると、修行どころか一日の大半を食料集めに使わなければならないのではないかという不安にかられますが、役行者は鬼神を使役して火を起こさせたりしていたらしいですから、椎の実を食べる場合でも、集めるのは鬼神にさせていたでしょう。
今の時期は採取してすぐ食べたらいいのですが、長期保存する場合には、数日間冷たい川の水に漬けて虫を殺し、その後カラカラになるまで干したそうです。もちろんこれも鬼神にやらせるとして、役行者を目指すには、まず鬼神を使えるようにならないといけないようですね。
スダジイの実は生でも食べられますが、軽く炒るととても美味で、松の実や銀杏に風味が似ています。今の時期、公園などでも結構落ちていますので、見つけたら是非お試しください。
ただし、シイやブナ以外の団栗類はものすごく渋いものが多いので、種類を間違えないようにお気を付けを。
なお、身近に生えている食べられる穀物としてエノコログサもありますが、あれを主食にしようと思ったらどのぐらいの分量が必要になるんでしょうね。