隠し事を、してました。
遠い昔から、
売られていました。僕。
奴隷だったから、それが普通だったのかも。僕は黒人で、それとは対照的に、髪が真っ白だった。アルビノって病気で。
そして、目は赤かった。これは、母さんと同じ色。
でも、母さんにも父さんにも会ったことない。
僕は、肌の色と髪の色が対照的で赤い目だから、「レア物」として、高値で売りに出された。首と両手首に一枚の木の板をはめられた。足は白い包帯で巻かれて、動けなくされた。右にも左にも、僕と同じ奴隷がたくさんいた。沢山の座っていて、道の邪魔になる商品は、壁に釣られた。首が痛い、と言い続けて死んだおじいさんが、壁から降ろされて、店の奥に消えて行った。
肌の色は黒だったり、白だったり。
僕は怖くなかった。
店に売りに出される前は、
働かされて、痛めつけられて、夜は奴らの性処理をさせられ、死のギリギリの遊びのオモチャにされた。
それに比べれば、ちゃんとご飯が出て、何もしなくても座っているだけで良い。客がいない時は周りと喋れる。
とくに、僕は肌の色と髪の色と目の色が美しいと、いろんな人から声をかけられた。奴隷だけど、笑顔は普通の人だ。もちろん。
ある日。店の主人が僕にいった。
「お前に飼い主ができる」と。
一言だけ言って、夜ご飯のパンを握らされた。周りは、驚きと悲しみの顔を五分五分のぞかせた。
「いつ?」と僕は驚いて聞き返すと、店の主人は「明日だ」と。
苦虫を噛み潰したような、でも、紙程度に薄い喜びも垣間見える、真顔ができない店の主人がいた。
次の日の暮れ方。
僕はもう来ないかと思っていた飼い主が、店に来た。店の主人は、飼い主の彼に軽く手をあげて挨拶した。
彼はとても小さかった。そして、魅力的だった。
12歳くらい。でも、僕よりキリッとして見える。僕はきっと間抜けに映っただろう。綺麗な薄い金のブロンド。右の目は白、左の目は黒。落ち着いた雰囲気で、綺麗なカナリア色のネクタイをつけていた。
「お待ちしておりました、キリオ様」
キリオ様?キリオって、変な名前…
キリオ様は、店の主人を睨んだ。
「キリオって名前は昔のだから、やめて。今はヴァイゼを名乗ってる」
そうか。ヴァイゼ様。
僕の飼い主はヴァイゼ様。
「…こちらになります」
店の主人は僕の方へ、ヴァイゼ様を誘導した。ヴァイゼ様は、僕を見下ろした。綺麗な目だな。
色々考えていると、もう僕は外に出ていた。手枷も何もされてない。涼しかった。
ヴァイゼ様は、僕のおへそより下だった。でも、僕は逆らえない雰囲気に息を飲んだ。
木でできた、お屋敷にしては少し小さめな家が見えて来た。他の家と離れて、広く感覚をとった塀に囲まれ、孤立していた。周りも木が生えていた。
「ヴァイゼ様」
僕は、寒さ募る中、ドアを開けようとする玄関の前で彼の名前を呼んだ。ヴァイゼ様はぴたっと止まって、ゆっくりと僕を見た。さっきとは、少し違ったあどけない表情だった。
「……僕…ぼく…」
呼び止めたものの、言葉が出なかった。僕は店を出た時、ヴァイゼ様が巻いていた真っ黒のマフラーを巻いていた。僕はそれで顔を隠したくなるほど恥ずかしかった。
「…どおして、僕を?」
かすれた声が出た。
僕の唇の右端にあいた、二つのピアス穴がひゅうひゅう音を立てる。
ヴァイゼ様は大きく白いため息をついた。
「…逃がすためさ」
気のお屋敷はあったかかった。
ヴァイゼ様は僕をソファに座らせると、僕がいた店のパンフレット(表には出ていない)を出して見せた。僕の写真が小さくついてる。
「白い髪に黒い肌に赤い目。難民から奴隷になったんだろう?」
ヴァイゼ様は大人のような口ぶりだった。僕は、どうして、と思った。
「なぜご存知で?」
「この辺で褐色の肌といえば、紛争だろ。セルティア王国側か?フロストフェロー側か?」
「……セルティア王国です」
僕はげんなりと答えた。ここはたしか、スカーレットフォレストだ。
ふぅん、とヴァイゼ様は興味なさげだった。
そのあと、バスルームに閉じ込められたかと思うと、「体を洗って」と怒鳴られた。はじめてシャンプーをして、頭がスースーした。頭だけが寒い、奇妙な感覚。身体もこすって、少しヒリヒリした。
バスルームから出ると僕はいつの間にか、
綺麗なオレンジのシャツと、艶のある赤いネクタイ。それに真っ黒のスーツのズボンをはき、同じ黒色のベストを着ていた。腕にはジャケットをかけて。
「…口にピアスを開けてるなんて、変な趣味だね」
背伸びして僕の唇を人差し指でなぞりながら彼はそう言った。まるで僕が人形のように。小さなジュエリーボックスから銀色のシンプルなリングピアスを二つ出すと、僕の口を無理やりこじ開けるなり、上の唇下の唇を穴にしっかり通してパチンと閉めた。右端の口を少し縫われているようで、喋り辛くなってしまった。冷たいピアスだった。
ヴァイゼ様はお金を何枚か、薄い長財布に入れると、僕のスーツのポケットに押し込んだ。
「さぁ、出て行け」
ヴァイゼ様は言い放った。
「そのくらいのお金があれば、今のフロストフェローでならなんでも買える。二ヶ月は生活できるよ。その間に仕事を探して」
僕は、自分の身体を見下ろし、近くの姿見を覗き込んだ。
くすんでいた髪は真っ白に。砂がこびりついていた肌は綺麗になって、赤い目は光っていた。スッと棒のようなスーツのズボン。ゴミ箱に突っ込まれている、僕が来ていた白い服。
生まれ変わったようだった。
いや、生まれ変わったんだ。もう、奴隷の僕じゃない。ただの黒人で、アルビノの、赤い目をした人。僕は人だ。人なんだ。
やっと人になれた。
僕は、
「ヴァイゼ…様……」
「なに?」
僕は、ジャケットを両手で持ち直した。
「……主人、と、呼ばせてください」
僕の声が震えた。僕よりうんと小さい、主人。僕はここ意外で、人にはなりたくないと思った。一人で外に出れば、また奴隷に戻る気がした。そんなの、嫌だ。
「…」
ヴァイゼ様は黙っていた。
「僕を、を、ヴァイゼ様の…主人、の、武器に、してくださ、してください」
自分でも驚くほど、喉と声が震えた。
人生で一番緊張した。
ヴァイゼ様は、小さくこくんと頷いた。
「しゅじーーーん‼︎‼︎おやつの時間ですよ‼︎」
「おう…って、おやつの時間っても、俺甘いものしか食べれないけどな」
僕は最高傑作とも言えるレモンタルトを主人の前に置いた。
主人はフォークを取る。
あれから約2000年の時が経った。死神である主人は、25歳の年で、時の中を旅して回っていた。僕はもちろん、助手としてずっとお供した。危険な目にあったし、死そうにもなった。
遠い未来で、僕は大鎌と合成された。つまり、
「…今日はやけに肌寒いな」
「もうすぐ冬が来ますから」
僕は大鎌に姿形を変えることができるわけだ。死神には大鎌。これはお決まり。(僕が年を取らないのは、大鎌が年を取らないのと同じ理由。僕はずっとこの若さのままだ)
主人と僕は二人で死神。
「………ねぇ、主人」
「なんだ?」
「もうずっと前ですが…僕のこと、」
「『まだ奴隷と思ってる?』だろ」
「………そうですよ。今だになぜ、僕が選ばれたのかわからない」
「容姿が物珍しかっただけだ」
「………嘘でしょ」
「…」
「僕が、セルティア王国の妃の捨て子だって、知っていたんでしょう?」
「………さぁな」
「………そうですか」
「……………いや、知ってたかもな」
隠し事を、してました。
遠い昔の、ヴァイゼ様は。
そして僕も、
完璧な彼のそばにいれば、僕も完璧になれると思っていました。
でも僕は、主人を守れませんでした。