「・・・・・・雪、すごいね」
二人きりになってしまった警察署の中、コーヒーの入ったマグカップで両手を気持ちばかり温めながら、ポニーテールを震わせてフィロはつぶやいた。
「寒い・・・二人だけだとさらに」
ウィリアムは少し素っ気なく返す。その鼻はちょっぴり赤くかじかんでいた。
フィロの机の上にも、ウィリアムの机の上にもマグカップがあり、白く弱々しい細い煙が二本たった。
「・・・デイヴィッドは?」
フィロはいつもこの13時にはデスクについているはずのデイヴィッドがいないことに気がついた。一番の年上が何をしていると感じた。「あぁ・・・止めたけど、」
ウィリアムは共用のコートかけをペンで指した。
「・・・・・3日前の、児童2人轢き逃げの現場をまた見に行った」
3日前の午後。まだ雪が浅かった日。
16時に公園の近くで、児童2人が両足を骨折する轢き逃げがあった。子どもが好きなデイヴィッドは目を光らせたが、3日たった今もまだ犯人は見つからないままだった。
「う、うそ、こんな中で?!」
フィロはもう一度窓の外を見る。雪はゆっくりと落ちて行くものの、量が多い。俗に言う、地面からしんしんとこみ上げる、粘っこい寒さだ。
デイヴィッドのマフラーも傘も、コート以外の防寒具は全て置いたまま。コートも薄く、とても防寒具にはなれていない。
フィロはマフラーとコート、傘をひっつかむと外出確認のため、書類にペンを走らせた。そのまま、ウィリアムの顔を一度見たきり、外へ飛び出した。
「・・・・」
公園の前には、まだ黄色と黒のポーンが10つ、周りを囲うようにたっていた。
アスファルトに滲んだ赤黒い血は、雪で霞んでほとんど見えない。
公園には、誰もいない。
デイヴィッドは素手のまま、植木に積もっていた雪をすくった。雪は手にとどまり、溶けない。
「・・・・・・寒く・・・ないな」
空を見上げても、白い雪がぷつぷつと落ちてくる、青灰色の空が広がるばかり。
「デイヴィッド!!!!」
笛の音のような甲高い声。
遠く背後を振り向くと、遠くに真っ黒の傘が見えた。どんどんとこちらに近づいて来る。
デイヴィッドは、無意識にハンドガンに手をかけた。
白いもやから徐々に姿がはっきりしてきた。萌黄色のポニーテール、燃えるように赤いマフラー。細いシルエット。紺の女警官服。緑のネクタイ。
「・・・フィロ」
ハンドガンにかけていた手を力なく下ろした。フィロの雪のついていない姿を見ると、自分の雪まみれの姿がおかしく映った。
「う、うぅわあ…何やってるんですか!」
フィロは黒い傘を片手に、いつもの黒い手袋をした手で、デイヴィッドの服の雪をはらいはじめた。
「悪い・・・でも、寒くない。邪魔だと思ったから何も持って来なかっただけで、」
「こんなクソ寒い中で、何をいってるんですか!?」
手袋を外すと、デイヴィッドの頬に手を添えた。頬は氷のように冷たくなっていた。フィロはいつもの怒った顔をデイヴィッドにして見せた。デイヴィッドの方がはるかに年上だが、この顔はいつもされる。
「・・・・・・お前、」
デイヴィッドは驚いたようにフィロを小さく見下ろす。
「・・・手が熱いぞ?」
フィロはさらに怒って見せ、あえて何も言わずにデイヴィッドの両目を見つめた。
「・・・・・・・・・・俺が冷たいのか」
フィロの頬に添えられた手に、自分の手を添えた。吐息が白くたまっていく。
灰色の空の世界が、歪んで、うるんで見え始めた。
フィロは自らに巻いていた赤いマフラーを片手でとり、片手でデイヴィッドの首に巻きつけ、
傘を持つ腕を伸ばし、デイヴィッドの頭も入るように近寄った。
デイヴィッドは両手をフィロの背中に回し、自分の背中を少し折って抱き締めた。
「・・・・・寒い」
「やっとですか」
フィロは着忘れて腕にかけていた黄土色のコートを、デイヴィッドの広い背中にかけた。
End
雪が積もったので、雪ネタ(・ω・)
お借りキャラなのであしからず