「ね、ね、知ってる?」
「なになに?」
「こないだ、カニバリズムで3人喰い殺した女子高生のこと」
「そんなの知ってるよ。テレビで大騒ぎしてるじゃん」
「その子ってね、インデ・グラスのバンドメンバーの一人の妹なんだって!」
「本当?!それって、だれだれ?」
「それはわかんないんだってさ・・・でも、マスターはお店を続けるみたいだよ」
「ふぅん・・・でもさ、ピアノ担当の人、最近ものすごく落ち込んでるみたいよ」
「ピアノ担当の人って・・・」
「ヴァイゼ、その辺にしておけ」
「わかってる」
店のすみで客を見送り終わったヴァイゼがうなだれていた。ケンドリックはそれを見逃さない。
「・・・まぁいい、少し話をしよう。」
「指名は?」
「今はサリチルとメチルがいる。もうすぐグランデラも来るさ」
筋肉質のケンドリックがグラスを握ると、たちまち割れてしまいそうだ。
「・・・災難だったな」
「同情するなよ。どうせわからないだろ」
ヴァイゼは酒の瓶に蓋をする。力強く瓶を机に叩きつけると、ケンドリックを睨んだ。
「仲良くやろうぜ」
「馬鹿にするなら他の人に」
「馬鹿になんかしてない。こうでもしないと、喋らないだろお前」
カッカと笑うケンドリックに苛立ちと少しばかりの憧れが込み上げてきた。
「さて・・・妹が警察に射殺されたのはいつだっけ?」
「・・・・・・3週間前」
「誰を喰い殺したんだって?」
「ゼウス教会のマザーと・・・ヴィヴィアン社の副社長、友人一人」
「お前も襲われた?」
ケンドリックの目の先には、ヴァイゼの肩があった。
「・・・止めようとした。でも我慢できなかったみたい」
「そうか・・・あの、黒人の助手は?」
「だから死んだんだよ!!!!どいつもこいつも俺の近くにいた奴はみんな!!!」
そう叫ぶと、ヴァイゼはケンドリックを押しのけて店の奥に走っていった。
控え室のロッカーの鏡を見つめた。いつもと変わらない自分がいた。
変わっていて欲しかった。袖もベネディクトもいなくなった。ホリンもヴィヴィアンもイザベルも。残ったのは自分と忌々しい元凶の兄だけ。この街には、フロストフェローには何も残らなかった。
フロストフェローの中で。
「ヴァイゼ!開けてくれ」
控え室のドアの向こうからケンドリックの声。
「ヴァイゼさん、どうしたんですかー?」
「出てきてくださいです」
サリチルとメチル兄弟の声もする。
同時にひどい頭痛が唐突に始まった。驚きで脚がふらつき、その場に膝をついた。
三人がドアの外で呼んでいる。その声が頭に響き、目を開けているのも精一杯になり始めた。喉が苦しい。冷や汗が何故か止まらなくなった。
助けを呼ばないと。
ドアを開けないと。
「・・・・・ヴァイゼ?」
背後から、遅番のグランデラの声が聞こえた。
やっと、自分が目をあけていることに気がついた。同時に、懐かしい感覚が両手を襲った。少し暖かい。懐かしい味を感じる。懐かしい匂いがまとわりついている。
幸せになった。幸せだった頃に戻った感覚だった。
そうか、ここが帰る場所。一人じゃない。こうしてしまえば、一人じゃない。帰ればいいんだ。
何もさみしいことはない。右肩の傷がじくじくするだけで、後は何も辛いことはない。
ーIt is not escaped from the Frostfellowー
ーフロストフェローからは逃げられないー
店の中と自分の体は三十数人の血液に塗れていた。
「・・・・・・Take a rest forever Frost fellow」
End









