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Bana’s story

ここではBanaがダークファンタジー系の小説を投稿しています。
不定期な上、創作で他キャラをお借りする場合があります


「美味しーの、いつもありがとぉ」
11歳の女の子、アディソンは無邪気に言った。綺麗な輪切り状のハンバーグを二つもぱくぱくと食べながら口を開くアディソンの唇は赤茶色のソースまみれだ。大きなフォーク一本で、物惜しそうに食事を続ける。
「別に。君には処理をしてもらってるだけだよ。残り物を残しといても、誰も欲しがらないからね。特に食べ物にいつも困ってる君に放り込んでるだけだ」
小さいのに大人な雰囲気を醸し出しながら鍋の中身をかき混ぜるハーディアス。男の子としての気品がある。アディソンとは何もかもが逆だった。
「残り物でもいいよぉ!あたしにとってはご馳走なんだもん」
「そうですか。ならいいけど。・・・ここ僕の家。ソースだらだらこぼさないで」
テッシュでアディソンの口周りを乱暴に拭き取りながらハーディアスは文句垂れた。それもそのはず、アディソンの膝はソースまみれ。
「この鍋の中、全部食べれる?料理作ったまま放置してもらっても困る」
「うん!全部食べる!アディソン、これしか食べれないから、いつもくれて嬉しいよ。考えずにご飯食べたら、お腹壊しちゃうし」
「それはよかった」
ハーディアスはキッチンにかかっているタオルで両手を拭くと、床下を開けた。中に入っている真っ黒のビニール袋を持ち上げ、う~んとうなる。
「・・・お土産、持って帰ります?料理する前の食材、ちょっと残ってるよ」
「本当?!ハーディアス大好き!」
アディソンは食卓を飛び降りると、キッチンに飛び込みハーディアスの両肩に抱き付いた。
「うわ!離れて!」
「えへへ!アディソンの食べれるものを知ってるの、ハーディアスだけだよ!ありがと!!」



黒いビニール袋から、誰かの腕が転がり落ちた。



end



「崩落がひどいね」
私の隣で、堕天使がほざいた。
「何か心に重荷でもあるの?僕に話してご覧よぉ!」
一面の花畑。パステルカラーの眩しいほど色とりどりの花。しかし、水色の青空からは、ガラガラと何かの崩れる音。そして、ところどころ枯れかけた花。
「ここの破壊は、君の、クロエの心の破壊と同じなんだよ。可哀想なクロエ!」
堕天使はまだ私に話しかける。何もかもを知っているくせに、虫唾がなる。
堕天使(もはや堕ちているかも知らない)を無視して、座っている足の近くの花を摘んだ。ピンクの可愛らしいコスモスだった。でも、枯れた。すぐに。
「私のことを子供扱いしているんだろ」
私は堕天使に言い放った。見た目からは堕天使の方が幼いが、私はわかる。堕天使の方が大人なのだと。
「・・・まあ、僕の見た目って、色々変わるし」

精神崩落がこの世界の崩落。
それも知っていた。私は心に重荷を抱えている。だから、ここも崩落している。、ただそれだけだ。
そしてここが夢の世界というのも知っている。昨晩、ベッドに潜り込んだのを覚えているからだ。
「さて、と。そろそろ話してよクロエ。ここが崩落しすぎると、僕の居場所が一つなくなるもんでさ。別に、夢の世界だけにしかいられないわけではないけど」
私は無視を決め込んだ。こいつがジュディのことを握っているのが気に食わないから。
空の崩落の音を見上げながら、意識が遠のいた。



ベッドの上だった。優しいミルクチョコレート色のベッドの中。ふかふかで軽くて大きなベッド。私の家(ほとんど隠れ家のような小さな家だけども)だった。ベッドとキッチンとバスルームを無理やり突っ込んだような、狭い部屋。広い部屋は嫌いだし、どうせ誰もきやしない。
昨日、疲れて下着で寝たのを忘れていた。お腹と太ももが冷たい。ベッドの檻に放置しっぱなしだったタオルガウンを羽織って、ベッドを降りた。
狭いリビングを通り、キッチンに向かう。
ぐ、ちゃ

何かを踏んだ。いや、物じゃない。
液体だ。黒い液体。電球の光を受けて白く、うようよと光っている。こぽこぽと静かに広がっていた。
それの先に、倒れたジュディがいた。
脚がびくんとはねた。胸の真ん中がどくどくと出たり入ったりしていた。頭の中の奥がぴりぴりとして、ぶるっと震えている。
私はゆっくりと倒れこむジュディに近付いた。キッチンだけは威嚇するようにいつも通り。
近付いてゆくにつれ、それが本当にジュディなのだと確信し始めた。
私と体を交換したジュディ。
つまり、私の今の体はジュディであり、今目の前に倒れているジュディは私の体をしていた。
真っ白い、長い髪を垂らして倒れている。
弩に弾かれたかのように、私はジュディに唐突に駆け寄った。
「ジュディ!!!」
頭を抱えて顔を覗き込んだ。
ジュディの目は、激しく開いていた。
動けなくなった。

黒血は絆の証だって言ったのに。

ジュディが呻いた。
「・・・!?」
私が今塗れている黒い液体。それは血。私達が小さい頃、黒い血が異端だと思っていた頃。同じ黒血どうしを見つけた私達は親友になった。
嫌いだった黒血は絆の証になった。
ジュディの口がまた動き出した。
「助けてクロエ助けてクロエ助けてクロエ助けてクロエ助けてクロエ助けてクロエ助けてクロエ助けてクロエ助けてクロエ助けてクロエ助けてクロエ助けてクロエ助けてクロエ助けてクロエ助けてクロエ助けてクロエ」
ジュディの口が、腕が、脚が、頭が、からくり人形のようにカタカタと震え始めた。
私はジュディを床に放り、ばっと立ち上がってしまった。
そして、不意に口からもれた。
「苦しいよ・・・」

キッチンの床が崩落し始めた。ボロボロと、床に広がった黒血に飲み込まれて行く。
意味のわからない出来事に、私はただただ呆然とその黒血に吸い込まれて行った。
何が何だかわからない。だけど、ある言葉が頭をよぎった。
ただもう、帰りたい。早く帰りたい。
何に?どこに帰ればいい?わからない。
でも、帰りたい。
苦しい。
帰りたい。






両肩の激しい痛みで、やっと目を開けられた。
「やっと起きてくれた?僕のクロエ」
堕天使の姿と、いつも私を起こしに来る愛しい人の面影が重なって、
どっちだかわからなかった。

end

"
いつもと何ら変わりなかった。身支度をして、7時に家を出た。
この季節はまだ薄暗い時間。でも、学校まで歩いて40分かかる。
友達と朝のお喋りをする時間もほしいし。この時間に出るのが妥当。
赤いマフラーは目立って少し恥ずかしかったけど、昔お母さんが残して行ってくれたもの。あったかい色が好きだから。
この寒い日。息は、はーっと吐くよりも、ほーっと吐いた方が、白くなりやすい。別に、白くなった息を見たって面白くもなんともないんだけれども、冬だけの特別な風景。夏には見られないものだから、見飽きるまで見ておこうと思った。

少し通りを歩いていると、
車道のど真ん中で、ネコが死んでいた。
車に引かれてしまったのか、ぱっくり割れた背中から、ピンク色のぐちゃぐちゃの何かに絡まった赤いものを覗かせていた。
顔は見えなかった。
私は忘れようと目を背けた。
その背けた先に、
あなたがいた。
「ナナ?ここでなぁにしてるの?」
あなたは私の顔をニコニコと覗いた。いつもの笑顔。こんなところであなたに会うはずはない。だって、あなたはいつもあなたの弟と登校してくるのだもの。
そこでやっと気がついた。
これは夢。悪い夢を私は見ているのだと。
わたしは後ずさりできなかった。かかとにはぴっとりと、あのネコの背中から出たものがついていたから。まるでわたしをせき止めるかのごとく、わたしの背後にはネコのしたいが沢山転がっていた。でも、不思議と怖くなかった。あなたと普通に話せる気がした。
「・・・わたしは悪い夢を見てるのね」
「う~んと・・・まあそうだね。早く起きなよ。それと・・・クマがひどいよ?どうしたの?」
「えへへ・・・緊張して、上手く眠れなくって」
わたしはあなたの手をとった。



わたしは懐かしいリビングにいた。
お母さんが買ってくれた、白と薄いピンクのながーいスカートのネグリジェ。リビングのベランダからは、綺麗な海とわたしの街。
テーブルにはお母さんとお父さんが、いつものようにコーヒーを飲んで、新聞を指差してお喋りをしていた。
わたしはいつものようにその中に混ざろうと、お母さんの隣に座った。
すると、お母さんがわたしとは反対方向にどさりと倒れた。
脇腹から血を流して、目をぱっちりと開いていた。
次にお父さんが新聞を掴んだまま、どさり。目と目の間から、血が溢れていた。
これもまた、わたしは怖くなかった。
いや、実際にはびっくりはした。でも、何故か怖くなかった。
わたしは自分を見た。血まみれのネグリジェに、血まみれの包丁。足元にはわたしの髪が散らばっていた。
これも怖くない。一度体験した。
「今日は豊作だねぇ・・・いやいや、僕はバクじゃないけどさ。ナナの夢は美味しいなって」
あなたは手のひらくらいのハートの平べったいチョコレートに小さくかぶりついた。そのチョコレートには、色々な種類のナッツと木の実が乗っていた。美味しいのはわたしの夢じゃなくて、そのチョコレートなんじゃないの?
「ちゃんと寝なくちゃ。ほら、女の子の命の時間、夜の・・・何時だっけ?」
「だって、緊張するとどうにも眠れないの・・・ごめんね、そわそわしちゃって」
わたしはあなたの手をとった。



真っ暗闇の中だった。わたしは制服を着ていた。
あなたはすでにわたしのまえに立っていた。
「ナナ・・・これは、ナナが乗り越えなくちゃならないものなんだよ」
「・・・わかってるわ。でも、こんなの治せない」
本当の話。わたしみたいな、精神的な病気、しかも世界に指折りくらいしかいない病気を治すのは無理。わたしだって迷惑してる。
「嫌なのはわかるよ。でも、だからって俺は助けられないんだ。変わってもあげられない。こうやって、無責任にナナを傷付けながら、頑張ってとしか言えない」
「わたしは傷付いてなんかないよ!ただ、」
「この苦しいものから逃げたいんでしょ」
「そう・・・でも、あなたを・・・あ、ぁ・・・ガーナル君・・・ガーナル君を失いたくない、一人は嫌よ、何もできない」
あなたが、ガーナル君がゆっくりと黒に溶け込んで行った。ガーナル君を失いたくない。でも、自然と足は動かなかった。
ガーナル君が目の前から消え去るのが当然かのごとく、わたしは仕方なくそれを見つめている感覚。涙が出そうなのに、出ない。
ガーナル君が、見えなくなった。






「起きてってば」
目が覚めた。わたしは保健室のベッドに横たわっていた。仕切りカーテンがわたし達を包んでいる。ガーナル君の顔が見えた。
最後のチョコレートの欠片を口に放り込みながら、わたしの両肩を揺すっていた。
「体育、無理して出るからだよ。持久走なんて走ったらふらふらになるの目に見えてるでしょ。だから倒れたんだよ。それに・・・今日、放課後デートしたいって言ったの、ナナからだよ」
ガーナル君はいつものようにくくっと笑った。ガーナル君は不思議な人だった。でももう慣れてしまって、夢もチョコレートも暗闇もどうでもよくなってしまった。
「ごめんね、昨夜緊張眠れなくって・・・」



End