■二つの番組が残したもの 佐滝剛弘(城西国際大学教授)

 

 

 

 この3月、長年続いた2本の紀行番組が幕を閉じることとなった。NHKの「ブラタモリ」とTBS系列の「世界・ふしぎ発見」である。前者は放送開始が2008年、後者はなんと1986年から始まった超長寿番組である。「ふしぎ発見」は、体裁はバラエティー番組、クイズ番組だが、ロケ部分は日本初取材の場所も多く、紀行番組の要素が強い。また、「ブラタモリ」も、芸人であるタモリが案内人となる文字通り「散歩」番組の体裁だが、訪問先の地域の成り立ちを深掘りする教養番組である。

 

 両者に共通するのは、今や花盛りの「タレントによるグルメざんまい」の旅番組とは、一線どころか二線も三線も画し、取り上げる国や地域の知られざる一面に光を当てつつ、番組としての面白さも保持してきたことである。

 

●文理の壁越え

 中でも「ブラタモリ」は、タモリの得意ジャンルである「地質」や「地形」という、およそテレビ的ではない素材を、タモリの博識と綿密な事前取材で練り上げたストーリーで料理した稀有な番組で、地学などの専門家界隈からの評価も極めて高かった。

 

 日本では、大学受験の段階で、いまだに文系と理系に分けられ、大学でもその壁はあまり交わらない学びが続くことが多い。「ブラタモリ」は、「地質」という理系ジャンルが、文系ジャンルであるその地域の「歴史」を形成し、今もその影響が息づいていることをわかりやすく提示しており、理系と文系の壁を軽々と乗り越えることの意義を伝えてくれていた。

 

 最終回となった3月9日放送の「指宿」の回はその象徴とも言えた。砂蒸し温泉で知られる鹿児島県指宿市は、火山銀座と呼ばれるほどの火山密集地帯にあるため、名物の砂蒸しも火山の恵みである。しかしそれだけでなく番組では、火山活動で形成された市内の天然の良港が、日本にキリスト教を伝えたフランシスコ・ザビエルを呼び寄せ、琉球から黒糖とサツマイモをもたらして薩摩藩の財政破綻と日本の飢饉を救ったことが解き明かされる。日本では、地質学も地理学もどちらかといえばマイナーな印象があるが、土地を知る上でどちらも欠かせない教養だということも伝わってくる。そしてタモリばかりに光が当たりがちだが、毎回ストーリーを作るスタッフの緻密な事前取材が番組の質を保っていることもよくわかる。

 

●遠くを見せる

 一方の「ふしぎ発見」は日本初の独立系制作プロダクションである「テレビマンユニオン」が当初から一貫して制作を担っている。「テレビ」の原義である「遠く(=テレ)を見せる(=ビジョン)」という役割を先頭に立って示してきた番組ともいえよう。両番組とも終了の理由は明らかにされていないが、出演者と視聴層の高齢化や取材先選定の困難化など複合的な理由が考えられる。とはいえ、「映え」や「グルメ」に頼らず、今や全盛のインターネットやSNS動画とは違った切り口で「遠く」を見せてくれる装置として、テレビの可能性はまだあるはずだと信じたい。 (さたき・よしひろ)

 

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