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印鑰 智哉

 

なぜ今、食のシステムを変えなければならないのか、この2つの記事を読めば保守的な人の腰を上げさせることができるかもしれない。

 

 1つは今の食のシステムを支える「緑の革命」が何をもたらしたかの研究、もう1つはそれを生態系の力を守り、活用する食のシステムに変わったら、どれだけ経済効果があがるかを示したもの。

 

 「緑の革命」とは化学肥料・農薬そして、F1のタネの3点セットで第2次世界大戦後、世界的に拡げられた工業的農業のこと。それが何をもたらしたか、確かに収量そのものは一定上がったものの、農地の荒廃を生み、栄養価が激減、さらに毒物の割合が増えた。

 

 栄養価はどれくらい下がったかというとインドのケースでは1960年代から2018年にかけて、米では亜鉛が33%、鉄が27%減少し、小麦の亜鉛と鉄の含有量はそれぞれ30%、19%減少した。一方、有害なヒ素は1,493%も急増した⁽¹⁾。

 

 カロリーだけは摂ることができるようになったけれども、生きていく上で必要なミネラルは不足し、がんやさまざまな疾患を生み出す毒物は急激に増える結果になった。当然、土壌・微生物の健全性はさらに損なわれているし、灌漑なしには農業ができなくなり、水体系も大きく損なわれる。その結果、農地も失われる。

 

 化学肥料は天然ガス、農薬は石油なしには作ることができない。つまり、「緑の革命」とは化石燃料をつぎ込む工業型モデルの導入に他ならず、気候変動に与える影響も多大なのだ。温暖化効果ガスの3分の1は直接、食の生産によって生み出されているが、その主因となっている。

 

 さらにこの工業型農業モデルは農業における貧富の格差も拡大させた。小規模農家を離農に追い込み、大規模農業が増えたが、これはさらに環境負荷を増やすことにつながった。

 

 「緑の革命」の隠れたコストを考えると膨大なものとなるだろう。気候変動などの環境破壊、水体系の破壊、そして化学肥料・農薬による環境汚染、それから生み出される健康被害、社会的格差の拡大、化学肥料・農薬の原料をめぐる争い、土地をめぐる争い。戦後、社会が大きく変えられた根本にこの問題が存在している。

 

 「化学肥料なしには農業できない」と信じ込んでしまうくらい、人びとにかつての農業技術を忘れさせてしまった。しかし、植物は微生物との共生によってさまざまなミネラルを得て、病虫害からも守られていた。その方法がアグロエコロジーの実践や研究によって明らかにされ、その力を引き出すことで十分生産力を保ちながら、化学肥料・農薬を不要にしていく方法が世界で広まっている。

 

 そうした生産に基づく食のシステムに移行することができたら、その経済効果は年間最大10兆ドルに達するという⁽²⁾(10兆ドルは現在の円換算で1500兆円を超す)。現在の工業型農業に基づく食のシステムは創造した以上の価値を破壊しており、今日の利益のために未来から借金している、いや未来を破壊している。

 

 このシステムの行く末がさらなる気候危機、資源をめぐる戦争であることを考えれば、この数値はまだまだ見積もりが低すぎるかもしれない。もし、食のシステムを転換できれば、気候危機は緩和され、紛争の要因も下り、そして人びとの栄養状況は改善できる。現在、世界を苦しめている多重危機の同時進行はこのシステムがもたらしていることを知るべきなのだ。

 だから根本的な社会変革は食からやっていく必要がある。

 

(1) The Toxic Legacy of the Green Revolution

https://www.project-syndicate.org/.../agribusiness-harms...

 

(2) Move to sustainable food systems could bring $10tn benefits a year, study finds

https://www.theguardian.com/.../sustainable-food...

 

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