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Chihiro Sato-Schuh
 

【技術的な成功と政治的な失敗】

 

モスクワに来たアメリカのジャーナリスト、タッカー・カールソンのインタビューに答えて、ロシア大統領プーチンは、30分もの間、一千年前からのロシアの歴史を語り続けていた。ロシアの歴史といっても、ウクライナに関わる歴史だけだ。その中で、ウクライナの土地で、ロシア人たちがポーランドに支配されて残虐に扱われていたという話がある。それが13世紀のことで、17世紀になって、ウクライナのロシア人権力者が、モスクワに手紙を書き、ウクライナの土地をモスクワ王国の一部として併合し、ポーランドの手から守って欲しいと頼んできた。それにより、ロシアはポーランドと戦争することになり、キエフを含めたドニエプル川以東の土地が、モスクワ王国になったということだった。

 

これについては、そのときに交わされた文書のコピーのファイルを、プーチンはカールソンに手渡している。これは作り話ではなく、本当の話なのだと。

ロシアの歴史には、同様の話がいくつもある。トルコとの戦争でも、ロシアは領土を征服しようとして戦争したわけではなく、トルコに侵略されて困っていたブルガリアに救援を頼まれて、解放したということだった。2014年に併合されたクリミア半島も、クリミアの住民が望んでのことだったし、2022年秋に併合されたドンバス地域もだ。ロシア連邦に守って欲しいと住民が望んで、住民投票によって、ロシアに民主的に併合されたのだ。

 

ロシアは極東まで広大な領地があり、そのすべてがどのようにして併合されることになったのかはわからないけれど、ロシアは土地に住む人々の民族伝統や宗教につねに敬意を払ってきた、とプーチンは言っている。そして、まさにそれがロシアの力なのだと。どの土地の人々も、ロシアが祖国であり、そこでは家族の一部であるように守られるという感覚を持っているのだと。

 

ウクライナは、ロシアとポーランドの境にある土地だけれど、まさにここがポーランドに何度も征服され、戦闘が繰り返されてきたのだ。ロシア人はロシア語を話し、ロシア正教を信じる民族で、ポーランド人とは違う民族だ。ポーランド人はポーランド語を話し、ローマ・カトリックを信じる民族だ。どうもこの、正教とローマ・カトリックの違いというのが、争いの根源になっているらしい。

 

それというのも、ローマ・カトリックは、ローマ帝国が支配に利用していた教会組織で、異教徒は排除したり虐殺してもいいという論理で、周囲の民族を征服支配していたからだ。このローマ・カトリック教徒たちによって、ヨーロッパのケルト・ゲルマン民族は、ほとんどすべて征服され、土地の神々を信じることを禁じられ、ローマ・カトリックに帰依することを強要された。そして、ローマ・カトリックに帰依するとは、バチカンつまりローマ帝国に服従するということを意味していた。

 

ところでロシアは、王族から正教徒になって、それが広がっていく形で、正教を信じる民族になっていったので、征服されて改宗していったのではない。ロシアは、併合された土地の民族の宗教を大事にした。どの宗教も、つまるところ同じものだという考えを持っていて、押しつけることはなかったのだ。

 

これは、ローマ・カトリックのあり方と、まさに正反対だと言える。ローマ・カトリックは、教えを広めることを、征服支配の手段として使っていた。南アメリカ大陸に渡ったスペイン人たちは、土地の人々を残らずカトリック教徒にしてしまい、カトリック教徒になろうとしない人々は虐殺してしまった。これは、ナザレのイエスの教えとは何の関係もない、ローマ帝国的な植民地主義と言うべきものだ。

 

2014年のマイダン革命で、ウクライナは、ロシアとの関係を保とうとするヤヌコヴィッチから、NATO加盟を望むナショナリストの政権に交替した。これは革命と呼ばれてはいるけれど、事実上は暴力的なクーデターで、このためにアメリカ政府は50億ドルを投資していた。このお金で、工作員を送り込み、ナショナリストのテロリストグループを養成し、武装させ、反政府デモを組織して、議会を乗っ取らせたのだ。

 

このときにも、プーチンはアメリカ政府と取引があったということを、インタビューの中で明かしている。アメリカ政府は、ヤヌコヴィッチが軍事的手段に訴えないようにしてくれたら、マイダン革命のナショナリストたちをなだめて暴力沙汰に走らないようにするからと、プーチンに言った。それで、ヤヌコヴィッチは軍隊を出動させなかった。すると、ナショナリストたちがクーデターを起こして、議会を乗っ取り、ヤヌコヴィッチを追い出してしまった。

 

マイダン革命では、警察隊は出動していたけれど、銃に弾が入っていなかったか、安全装置を外す許可が出ていなかったというような話だったと思う。とにかく、建物の上から狙撃手が発砲して、デモの人々だけでなく、警察官も何人も犠牲になった。アメリカ政府は、プーチンとヤヌコヴィッチを裏切ったのだ。それについてプーチンは、「アメリカ中央情報局は、技術的にはすべて正しいことをしたけれど、政治的には大失策をした」と言っていた。

 

アメリカ中央情報局は、冷戦の時代から、ロシアをいかに弱体化するかということを専門にしてきて、それ以外のことはまったく考えられないし、まったく見えていない、とプーチンは言う。ロシアを弱体化するのが目的だから、その目的が達成されるためには、何でもする。ロシアの政治家をだまして、空約束をしたり、流血騒ぎを起こしたり、どんな手段も使うのだ。そこには、ただ目的を達成するための計算があるだけだ。その結果、どんな事態になろうが、そこまでは視野に入っていない。アメリカにはそのように専門化した技術者がたくさんいて、それぞれ目的を達成することしか考えていないというのだ。

 

しかし、ロシアの人々はそのようには考えない。ロシア人は正教の信仰を大事にする人々で、永遠や道徳の価値観でものを考えるのだと、プーチンは言う。そして、まさにそのように考えて行動しているからこそ、ロシアでは異なる民族、異なる宗教の人々が、まるで一つの家族のように団結している。

 

排他的な支配は、つまるところ、ローマ帝国のようにいつかは崩壊していく運命にある。西ローマ帝国は、支配されていたゲルマン人たちが、次第に経済的に強くなっていって、ローマまで攻めてくる事態になり、それによって崩壊したのだ。ローマ帝国が滅亡するのには、500年かかったけれど、今はそれよりも遥かに早いスピードで崩壊が進行している、とプーチンは言っている。

 

暴力で支配すれば、いずれは暴力で破滅させられる。プーチンが「政治的な大失策」と言ったのは、つまりはこのことなのだろう。人をだまし討ちにかけたり、大虐殺を行なったりすれば、敵意が大きくなり、暴力を使ってしか支配できなくなっていく。そしていつか強くなった人々は、支配勢力を滅亡させるべく戦い始める。

 

そして、まさにその事態が今、起こっているのだ。戦後世界を支配してきたアメリカは、すでに経済力でも技術力でも軍事力でも、BRICSに負けている。国際通貨としての米ドルを、政治的武器として使ったために、今や多くの国は米ドルから離脱しようとしているし、いくら軍事力を投じても、もうロシアをつぶすことはできない状況だ。世界支配勢力としてのアメリカは、今、ローマ帝国と同様に滅亡していこうとしている。

 

しかし、ここでアメリカの人々が、技術的に目的を達成する思考から離れて、もっと大きな視点で状況を見ることができれば、起こることは変わってくるだろうと、プーチンは言うのだ。自分から滅亡へと突っ走っていくのではなく、協調する国際関係を築くことで、病的な分裂状態が癒やされていくだろうと。

 

私たちは、征服したりされたり、支配したりされたり、という世界が当たり前だと思ってきて、それが人間の性であり、それ以外の世界などないのだとさえ思っている。ところで、それはローマ帝国とローマ・カトリックが支配してきた世界でのことにすぎず、ロシアや正教を信仰する人々は、対極的と言ってもいいくらいに、違う原理で動く世界に生きていたのだ。

 

この200年ほど、支配と策略とで動く西側世界は、道義を大事にするロシア人を、空約束でさんざんだまして、思い通りにしてきた。しかし、それは技術的な成功にすぎない。政治的な視野で見たら、アメリカ帝国の崩壊を加速しただけのことだったのだ。

 

 

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