先日公開した動画につけた音楽について。
滝映像につける音楽を考えた際に、最もインスピレーションを得たのが以前から好きだった北斎のこの絵。
滝をモチーフにした作品はメディアを問わず無数にあるけれども、この絵のインパクトを超えるものはまだ出合っていない。
セルフビレイが要りそうな危うい崖の縁で寛いでいる人々が飲み食いしながら何をやっているのかは分からないが、自分には滝を愛でながら一句詠んでいるように見えて仕方がない。
ということで、今回は滝前で句を詠んでいるような音楽にしようと単純に決めてしまった。
たゆたうように五七五のリズムを概ね刻んでいるのがおわかりになるかと。
5音構成のボイシングをゆったり並べていっているだけだが、単純なようで難しい。
教科書どおりのボイシングを使っていると 終始凡庸になってしまう。
それを避けるためにあえて歪なボイシングを選んでいるのだけれども、そのよりどころとなった技法が表題のもの。
元々Duke Ellingtonが自身のビッグバンドのアレンジに編み出した秘伝技をHerb Pomeroyという人が定式化してBerkleeのコースで教えていたもの。
この技法、シングルラインのボイシングを行う際に古典的なBerklee式の「Spread」や「Dropなにがし」などの技法だと誰でも使っているために決まりきった無個性な響きになってしまうので、それから脱却すべく面白いボイシングを編み出すために考案されたらしい。
以下、幸い以前にこの理論を教えてもらう機会があったので、自分の理解している範囲でこの技法を把握する取っ掛かりなどを備忘録を兼ねて。
実際ビッグバンドだけでなく色々な場面で使えるし個人的にもかなり影響を受けている技法なのだけれども、技法の詳細な情報がなかなか入手しづらい。
しかしながらBerkleeでの講義ノートのスキャンらしきものが時折Webで転がっている。 今現在だとこのあたりだけれどもたぶんそのうちなくなってしまうだろう。
内容は未整理で状態の悪いスキャンで落書きが多い上に、謎の符牒のような用語もあって独学で解読するのも結構難しいが、逆に言えば謎の用語の意味を押さえていて基本的なBerklee理論を知っていればかなりの部分を理解できると思う。
このドキュメントの中で躓きそうな用語はだいたい以下のあたりだと思う。
・PD,SD
Page13の"INTERVAL CHART"に説明があって
PD=Primary Dissonant= 短2度 or 長7度
SD=Secondary Dissonant=長2度 or 短7度 or P4 or P5
Consonants=それ以外
上に行くほど不協和で、ボイシング中にいくつこれらのインターバルがあるかで不協和の度合いを数値化できる。
・PC,SC
PC=Primary Climax
SC=Secondary Climax
つまり処理するフレーズの中から強調するノートを2つ選ぶということ。通常は高い音とか長い音などを選ぶ。
・ATBATその他大文字5つの暗号
Alto Tenor Baritone Alto Tenorの略。その他CATBTのCはClarinetなどなど。
つまりボイシングを各楽器にアサインする際、普通ではない並び方にすることで変わった響きになるようにする目的があるらしい。
・Small,Medium,Large
Page16に記述があるが、外声のインターバルの大きさによる分類。音楽にメリハリをつけるために意識しておくべきもの。
Small=0~10度
Medium=10度~2oct
Large=それ以上
さて、このドキュメントの中では色々な技が例と共に列挙されているが、その中でもこの技法の根幹となる手順がPage13のVoicing Rulesとして手順や制約が細かく列挙されている。
上の用語とBerklee理論があればある程度理解できると思うが、個人的には以下のように大雑把に把握していて日頃ボイシングを作るときに思い出すようにしている。
・まずラインの中から重要なPCとSCの2音を選択。実務上では2音より前後することもある。
・選択した音のBottom NoteをAvailable Noteから選ぶ。その際Small~Largeを常に考えながらなるべくメロディと反行になるように。
・選択した音の残りの内声をAvailable NoteからVoicing Rulesの規則に違反しないように選んで作る。その際、PC,SCは残りの音より多くのPDを入れるように配慮する。
・つまりPC,SCのボイシングは他の音より不協和になってメリハリがつくことになる。
・次にPCとSCを補間するように残り音のボイシングを行う。各ラインが歌うように。PD,SDは控えめに。
・内声を作るときにはBerklee理論のように3度や7度に固執する必要はない。これらを外したほうが却って面白い音になることが多い。
広く役に立つ技法なので廃れずにもっと周知が広まればよいのだけれども…