普段は自身の楽曲はあまり前衛になり過ぎないようにかなり抑えているのですが、実は自身は大の現代音楽ファンだったりするのです。
前回の本栖湖動画、ニッチすぎて再生もほとんどされないだろうから(汗…)折角なので実験的にatonal(無調)な曲をつけようと以前から決めていました。
話は変わって、
以前から「音の組み合わせ」の可能性はそもそもいくつあるのか…という非常に根源的な疑問を持っていました。
それについての前提として、12平均律の枠内という制約を与えればその回答はPitch Class Setという考え方に集約されることを知った。
この考え方によると、移調や反転などの同形のダブりを除いていけば、最終的に350程度の音の組み合わせしか存在しないのです。(想定外に少ないので少々驚きでした。)
逆に、この350個のそれぞれの組を移調・反転・オクターブ移動・重複などしていくことですべてのボイシングが表現できるということです。
ということで、折角なので実験的に(重複音・オクターブ以上の解離なしという前提で)すべてのボイシングを洗い出すプログラムを組んでみました。
使用したツールはMITがオープンソースで提供しているmusic21というPythonベースの作曲支援プラットホーム。
リアルタイム&アルゴリズミックに譜面を生成できる「数少ないまともな」ツールです。
Pitch Class Setもそのままライブラリに組み込まれているのですこぶる簡単ににプログラムを組むことができました。
ただし、2音から始まって音数が増えるに従って組み合わせが増えていくので、8音まで生成するのに3日ほどかかり、これ以上の音数は断念。
つまり8音だとその重ね方の組み合わせは反転を含めると(8*7*6*5*4*3*2)*2=80640通りのボイシングが存在するわけです。
ここで生成された結果を整理して表示&試聴できる簡単なGUIを作成、それがこんな感じ。

脈絡もなく触っているだけでも、いままで見たことがない面白いボイシングが次々と出てくるので、時間を忘れて遊んでしまいました。
それぞれのPitch Classの個性や雰囲気はボイシングが変わっても一貫しており、それぞれのPitch Classが独特の雰囲気を持っていて、凡庸なもの、尖り過ぎているもの、丁度心地いいものなど…いろいろ。
話は戻って
前回の本栖湖動画でこの自前ツールを大々的に活用して曲を作りました。
ほぼ全編に渡って「7-33」というPitch Classを使用しています。
要はこんな音集合。

全音音階の柔らかい響きに硬質な半音を一つスパイスのように挿入したような形。
このPitch Class、どう配置してもすこぶる刺激的な響きがするのですが、実は自身の敬愛する作曲家・武満徹氏が最も多用しているもので、いわゆる「タケミツトーン」の根幹となっている音集合でもあるのです。
そのあたりはこの本に詳細に渡って書いてあります。

その他のPitch Classの開拓を含めて、当面このツールでいろいろ遊べそうです。