ナイフを振り回している通り魔に対して一気に距離を詰める。

通り魔が急に近付いて来た人物に気をとられて、動きを止めた瞬間に右手に構えた木刀を下方から振り上げだ。
その速度はバッティングセンターで150kmを打ち返した時よりも数段速い。

一瞬だけ鈍い感触が木刀に伝わり、通り魔の腕から鈍く大きな音が弾き出される。

続いて足を払う、払われた足は地面と別れを告げ、通り魔の体は中に浮いた。

浮いた体に木刀を押し付け下方に押し込む、通り魔の体は勢いよく地面に叩きられた。

更に木刀を縦に一降り、ガンという音と共にナイフが深々と通り魔の首の近く地面に刺さった、通り魔の首から一筋の血が流れていた。

首に木刀を押し付ける、通り魔は急な出来事に動転し、泣きながら『痛い、助けてくれ』と命ごいをした。

「私はあなたが何故このような行為に至ったのかは知りません、もしかしたら心に凄い傷を負っていたのかもしれません、ただ、『殺される覚悟も無く人を殺そうとする輩』が大嫌いなんですよ、助けてと言う人にナイフを刺し、自分が同じ目にあったら命ごいをするような人がね。」
涼子は冷たい目で取るを見下ろしていた。



≪ タイトル未定(21) ≫ タイトル未定(23)

「涼子さん、何でついて来てるんですか、危ないですよ!」
陸くんが通り魔がいることを告げてから、すぐにショッピングセンターの方に走った。
涼子さんも何故か一所に走りだしていた。

「大丈夫ですよ、あの程度のナイフなら、それに私あのような人大嫌いですから、一発殴ってやりたいのです。」
涼子さんの怒っている顔を初めて見た。

「あの程度…いやいや一般的なナイフとは全然違いますよ。」
通り魔が見えてきた、持ってるナイフはナイフと言うよりは一回り大きい包丁のような物だった。

「心配してくれるのは嬉しいですけれど。」
涼子さんは俯いて、表情が見えなかった。

「時斗さんは怪我人の方をお願いします、時乃さんから止血のプロだと聞いていますので。」
涼子さんが顔を上げてそういった。

「また雫がおかしな事を、努力してみます。」
そのやり取りの後に、雫の方から『怪我人をお願い』という言葉が聞こえてきたので、取り敢えず右手を上げて答えた。

涼子さんが通り魔側、私が怪我人側に別れた。
私が怪我人の元にたどり着いたと同じ位に通り魔のいた方から鈍い音が、骨の折れる音がした。



≪ タイトル未定(20) ≫ タイトル未定(22)

「えっ、何事?」

「どうやら、あっちのショッピングセンターで何か起こった見たいだね。」
陸が向こう側にある、ショッピングセンターの方を指さした、確かに多くの人が逃げるようにその場を離れている。

「どうやら、ナイフを持った人が暴れている見たい、ナイフって言うには大き過ぎるかな、刺されて倒れている人も見えるね。」
陸は目を細めてその場を見ている、僕の方からは人込みしか見えないけど。
陸がそう言ったとほぼ同時に時斗と涼子がショッピングセンターに向けて走り出していた。

「静動くんと篠宮さん、危ないよ!!」
陸が叫んで二人を呼び止めるが、二人とも止まらずに走り続けた。

「時斗は怪我人の方をお願い!」僕がそう言うと、時斗は軽く右手で返事をし、そのまま人込みの中に消えていった。

「時乃さんあの二人止めなくて良いの、でかいナイフを持ってるんだよ」


「あの二人だから大丈夫、富迫は行っても邪魔になるから待機ね。」
後を追い掛けようとした富迫の服をがしっと掴んだ。

「あの二人が心配だから行かせてくれ~」

凄く鈍い音がした、その後涼子の滅多に聞けない怒鳴り声が聞こえ、野次馬の人達は歓喜の声をあげていた。

「えっ、何が起きたんだ。」

「だから言ったでしょ、あの二人なら大丈夫だって。」

「凄いね、すぐに片がつくなんて。」
陸は携帯電話をパタンと閉じた。

「陸は119に電話してくれたの?」

「いや、ちょっとね119じゃないよ。」
陸は軽く首をふる。
少ししたら、上空からヘリコプターの羽音が聞こえてきた。

「陸、あなたいったい何処に電話したの。」

「気にしない、気にしない。」
陸は笑うだけで、結局何処に電話したのか教えてくれなかった。


≪ タイトル未定(19) ≫ タイトル未定(21)

その後、陸くんがボーリングで280スコアをたたき出したり、富迫くんが太鼓を模したゲームで人を集めたり、涼子さんがバッティングセンターで150kmの直球をホームランの看板に打ち返したりしているうちに空はオレンジ色の夕暮れの景色に変わっていた。

「もうこんな時間か、遊んでると時間が経つのが早いね。」
時計で時間を確認した後、ぐっと上体を反らし背伸びをした。

「そうだな、しかし高校野球の公式戦に女子が参加できるようなら、りょうちゃんはうちの高校の4番を任されてたんだろうな。」
富迫くんが残念そうにそういった。

「あれは偶然ですよ、それに私は守れませんし。」
涼子さんが照れながら微笑んだ。
ただ、20球中14球打ち返して内4つがホームランの看板だと偶然な気がしないのだけれど。

「常に木刀で素振りの練習でもしてるのか、振りが鋭かったし、アレは熟練した選手の振りだった。」
富迫くんが両手を組んで頷いた。
「毎日野球のような素振りはしてませんよ、これは単に護身用に持ち歩いているだけです。」
そういえば涼子さんって通学時にも木刀を持ってたな。

「ずっと気になっていたけれど、その木刀って護身用の物だったのですか。」
誰もふれないから、ふれたらいけない話題なのと思っていたがそうでも無いらしい。

「そーよ、過去に痴漢を撃退したこともあるんだから、あの時の痴漢の人って両腕を折って一ヶ月ぐらい入院したらしいよ。」
雫がまた大袈裟に力説している。
「あの時はちょっとカッとなって加減が出来ませんでしたからね、流石にもう腕を折るような事はしませんよ。」
涼子さんが後ろめたそうに肩を落とした。
実際にあった事らしく驚いた。

「あの時の涼子はかっこよかったよ。」
雫の言葉の続きは悲鳴によって掻き消された。


≪ タイトル未定(18) ≫ タイトル未定(20)

「一通り試着が終わったけれど、何か気に入った物はあった?」
何時もの着物に着替えて試着室のカーテンを開けた、

「えっと、取り敢えず買うものは決めたよ。」
買うことに決めた服を皆に見せた。

「それぞれが選んだのを一着ずつ選んだのね、って一番似合っていた黒いワンピースが無いじゃない!」
雫がつまらなさそうに文句を言った。

「流石に女性物は着ないから。」
「却下、時斗が買わないなら僕が買って無理矢理着せてやる!」

「そういうことなら、僕もお金を出すよ。」
陸くんがそういい、それに涼子さんと富迫くんが続いた。

「ふぅ、良い買い物をした。」
レジで会計をすませてホートンから出た。
黒いワンピースを買ったので、雫はかなり嬉しそうだった。

「まぁ、着る機会はないだろうがな。」

「機会が無ければ作れば良いのよ。」
雫が怪しげな笑みを浮かべていた。


≪ タイトル未定(17) ≫ タイトル未定(19)