戦前から皐月賞1、2着馬の2強ムードが漂った今年の競馬の祭典日本ダービー。11万人を超える観客の前で繰り広げられた熱戦の結末は、ドラマチックなものだった。
皐月賞同様公約通りに逃げたのはゼロス。しかし、今回はその直後にウィリアムズ騎手騎乗のトーセンホマレボシがピッタリつける形で、1000m通過は59秒1。ゼロスとしては思った以上にペースが上がってしまった。1番人気に推されたワールドエースは中団に待機し、それを直後でマークする形でゴールドシップが進める。しかし前が引っ張ったとはいえ、速い時計が出る馬場に加えて縦長の展開。それほど後ろが有利という流れにはならなかった。その流れの中で自分の競馬に徹して栄冠を手にしたのがディープブリランテだった。
真面目すぎる気性でムキになりやすく、その弱点がもろに出てしまった皐月賞が3着。敗因ははっきりしていたとはいえ、上位2頭には完敗だったディープブリランテ。しかし今回は首を上げて行きたがるシーンこそあったが、鞍上の指示をしっかりと聞き、2コーナーではしっかり折り合っていた。緩まない展開で流れたのもよかったが、この短期間で見事に馬が成長していた。勝負どころではいつも以上に強気に前を捕らえにいく競馬。その分最後は脚が上がったが、なんとか追い詰めたフェノーメノを凌ぎきって見せた。
これが初めてのダービー制覇となった岩田騎手。これまでアンライバルドやヴィクトワールピサなどの実力馬で挑みながら、勝利の女神には見放されてきた。今回はNHKマイルカップで騎乗停止を受けた直後ということで、コメントにもあったがディープブリランテとしっかりとしたコンタクトをとることができたのはやはりプラスだっただろう。
岩田騎手の直線での騎乗ぶりを見ると、いつも以上に手綱が長い。首の使い方がうまいディープブリランテの全身運動の邪魔をせず、豪快なアクションで馬を叱咤激励した。あまりに豪快すぎて残り200mを切ったあたりで右手綱を離してしまうシーンも見られたが、それだけこのダービーに賭ける思いは強かった。写真判定になったためウイニングランこそできなかったが、掲示板に数字が出たときに見せた涙とその後の一礼には、自然とこみ上げてくるものがあった。イワタコールがスタンドから湧きあがったのもファンが同じ気持ちを感じたからだろう。素晴らしいレースを見せた。
父ディープインパクトとの親子制覇を達成したディープブリランテ。デビュー戦から父に似た重心の低い走法は目を引いたが、前述の通り真面目すぎる気性が邪魔をしてフルパフォーマンスを発揮できたレースはこれが初めてのように感じる。まだ上積みのありそうな馬だし、岩田騎手との信頼関係が築けたことを確認したダービーの内容は今後へ向けての収穫も大きかった。今後が一層楽しみになった。
ハナ差で戴冠を逃したフェノーメノは能力全開の走りを見せての2着だけに悔しい。縦長の展開の中で前を見ながらしっかり折り合い、前の馬にも後ろの馬にも対応できる完璧な位置取り。長くいい脚を使えるこの馬の特徴をいかんなく発揮するための抜群の仕掛けどころですべてがパーフェクトな競馬。惜しかったのはフラフラになるまで力を出し切ったために馬体を併せる形に持ち込むことができなかったこと。Cコースに変わり内の芝の状態が良かったがためのハナ差と考えると本当に惜しすぎる2着だった。
蛯名騎手もまた、長い騎手人生の中でダービーには手が届かないでいた。しかしこの馬の素質の高さは早くから陣営も感じていたし、それまで手綱をとっていた岩田騎手に代わって青葉賞で蛯名騎手に任せたのも、この馬ならダービーを勝てるという確信があったからだろう。それだけに勝ったディープブリランテとのハナ差はあまりに大きすぎるハナ差で、勝者の涙と対照的な蛯名騎手の悔し涙もまた印象的だった。
積極策で見せ場を作ったトーセンホマレボシはまたまた鞍上の好プレーが光った。この馬の場合前走の京都新聞杯をレコードタイムで快勝して時計勝負大歓迎であることがわかったのが大きかった。ウィリアムズ騎手はこの日の時計が出やすく前が簡単に止まらない馬場を感じてこの作戦を実行したわけだが、相変わらずの研究熱心ぶりには本当に尊敬する。遅いデビューでまだまだこれからの馬。今後が大いに楽しみになる一戦だった。
1番人気ワールドエースは4着。差し馬にとっては苦しい馬場だっただけに仕方のない4着ではある。これでもいつもより前で競馬をしているし、できる限りの対応策はとったが、それでもここまで迫るのが精一杯だった。前走までのレースぶりを考えれば、この展開、馬場でも突き抜けてくると思ったファンは多いだろう。しかし、それでも鞍上のコメント通りスッと伸びてこれなかったのは、状態が万全でなかったこともあったとはいえ、そこまでの馬だという評価をせざるを得ない。
ワールドエースに関しては気になる点が二つある。一つはレース後に池江調教師が仕上げが甘かった旨のコメントを出したこと。結論から言えば皐月賞時よりも調教の動きは悪かったし、現状では精一杯の状態にあったのだから、仕上げそのものに問題はなかった。むしろこれ以上ハードに仕上げていれば馬の状態はまずい方向に向かっていただろう。
もう一つは坂上で福永騎手のムチに反抗したのか尻尾を振った点。陣営が早くから賢い馬だと話していたが、そうだとすれば馬自身限界の状態にあることを感じていたように思う。これ以上無理をするのは危ないという信号を発信していたように感じた。正直こちらの方がかなり重要なポイントのように思う。オルフェーヴルの天皇賞時よりもこちらのほうをより入念に観察する必要がある。真面目に頑張る馬が多いディープインパクト産駒であるからなおさらだ。異常がなければしっかり休ませるべきで、まさか宝塚記念を使うなんてことはないと思いたい。
皐月賞馬ゴールドシップもよく差を詰めはしたが5着が精一杯。気配そのものはまったく問題なかったが、スタートから内田騎手が押しても押しても加速できなかった。結果的に中団で腹をくくったが、前が簡単には止まらない馬場ではさすがに厳しかった。4角手前から早めに前を追いかけて行ったが、元々が切れる馬ではないのでこの展開では届かないのも仕方がない面はある。力があるのは明らかなので秋の巻き返しに期待したい。
6着に頑張ったコスモオオゾラは相変わらずの堅実ぶりを見せたが、レース後に両第1指骨剥離骨折が判明。近日中に美浦トレーニング・センター競走馬診療所において手術を実施する予定とのこと。渋った馬場を得意とする馬だが、あまりに時計の出過ぎる決着で頑張りすぎてしまった。
プリンシパルS勝ちで臨んだスピルバーグは、初めての大舞台に緊張したのかレース前から体全体が力んでいた。返し馬から身のこなしの硬さが気になったし、スタートで立ちあがってまったくダッシュが利かなかった。疲れどうこうよりも経験の浅さが露呈してしまった感じ。この経験が今後の糧になれば。
一発を期待したクラレントは馬場を意識して積極策に出たが、結果的に自分の型を崩す競馬になりまったく持ち味が活きなかった。4角で舌を出すなど気難しい面も残っているようで、この一戦で距離適性を判断するのも難しい。力は間違いなくあるので、いずれ必ず大きなタイトルをとれる馬だろうが、この後1、2戦が手探りな競馬になってしまう可能性も否定できない。
ヒストリカルはシンガリ負け。陣営は「輸送さえこなせれば」とのコメントを出していたが、調教後馬体重からマイナス20キロとものの見事に輸送に失敗してしまった。元々小柄な馬だけに、ここまで減ってしまっては追走だけで手一杯のレースぶりも仕方がない。まったく見せ場がなかった。潜在能力の高さは毎日杯で見せた通りだが、内面の強化に時間がかかる血統なので、長い目で見たい。
今年のダービーは昨年とはまったく違った形で馬場の影響が出た感は否めない。しかしながら、思ったほど皐月賞の1、2着馬が抜けた存在ではなく、レベルが拮抗した世代だったことがこのダービーでようやくはっきりした。いい意味で菊花賞も混戦になるだろうし、夏をはさんで実力馬がどれだけパワーアップし、他路線組からどんな素質馬が出てくるか。楽しみは大きい。