<第317話> 第7章 大学院受験編Ⅰ ~新しいエピローグ(2)~
まだ春の陽気が訪れたばかりの頃。
僕は、大学の中庭のベンチに腰掛けていた。
スプリングコートのポケットから文庫本を取り出し、
ぼんやりと本を読んで過ごしていた。
サークルの練習には顔を出さなくなったものの、
友人たちとは今でもつきあいはある。
何かあれば飯も食うし、
バイトも続けている。
だが、
単調な生活が続いていく中で、
あれほど欲していた「力」を手にすることをあきらめていた僕は、
勉強することをやめていた。
気力もなく、
怠惰な生活を続ける僕を、
誰が責められるというのか。
そんな自虐的な気持ちを抱きながら、
日々を過ごしていた。
そんな僕に、
「隣、いいかい?」
声をかけてきた人がいた。
「あ、どうぞ。」
顔を上げると、
みたところ、40代くらいの男性がたっていた。
モスグリーンのモッズコートに、
くたびれたスーツをきた男性は、
僕のとなりに腰掛け、
ポケットから取り出したタバコに火をつける。
(おいおい、ここは禁煙ですよ?(;゜Д゜)
「いい天気だね。」
唐突に話しかけられ、
僕は戸惑った。
知らない人に声をかけられることは、
せいぜい道を尋ねられるときくらいのものだ。
「そうですね。」
黙ったままでいるのもおかしいので、
適当に相づちだけ打って、視線を文庫本に戻す。
それからしばらく、
隣の男性は無言のままタバコを根元まで吸い続けた。
そして、
おもむろに立ち上がったかと思うと、
「君、神谷綾西君だよね?」
突然、僕の名前を呼んだ。
・・・え?
驚いて改めて男性の顔を見る。
やはり見知った顔ではない。
不審に思いつつも、
嘘をつく気にもなれなかった僕は、
「そうですけど・・・。何か?」
男性に対して返事をしていた。
すると男性はタバコをとりだしたコートのポケットではなく、
中に着込んでいたスーツから、何かを取り出した。
・・・!
「私、新宿南署の櫻井といいます。」
それは、
初めて目にする警察手帳だった。
「ちょっとお伺いしたいことがあるんですが・・・。」
僕の、
運命が一つ、
また動き始めたのだった・・・。
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