新・天才神谷君の下り坂人生~TenKami-Story~ -3ページ目

<第318話> 第7章 大学院受験編Ⅰ ~新しいエピローグ(3)~

「新宿南署・・・?刑事さん・・・ですか?」



あまりに唐突な訪問に、


僕は動揺を隠せなかった。


警察が僕に何の用だろうか。


身に覚えがあるはずもないが、


警察の人と会話をするというだけで身構えてしまう。



僕は、相手の顔を見据えたまま固まった。



「えぇ、三日前のことで、少しお話を伺えますか?」



返す名刺を持たない僕は、


もらった名刺を所在なげに両の手で持ちながら、


記憶を呼び起こしていた。


三日前といえば・・・。




僕は、


大学で知り合った友人と、


新宿界隈で食事をしていた。


・・・。


この人、新宿南署って言ったっけ・・?




「かまいませんけど、何の話ですか?」



相手の所属のことを考えつつ、


僕は答える。


ちょうど授業のあいている時間帯だった。


読書でもしようかというところへの突然の訪問だったので、


話すくらいはかまわない。



怠惰な日常にふいに訪れた非現実的な出会いに、


僕は奇妙な興味を覚えた。



「実は、奥野準さんの行方がわからなくなっていまして・・。」




隣に腰を下ろした櫻井と名乗る刑事が口を開いた。



奥野?


それは、僕が三日前に会った友人だ。


大学の学部の講義で知り合った彼とは、


かれこれ2年来のつきあいである。


彼は、


サークルにもはいらず、


バイトも特にこれといってせず、


勉強中心の生活をしていた同級生だ。



といっても、


性格は真面目すぎることはなく、


時折、飲みに行ったりはする。



さほど接点のない僕らだったが、


目指す目標が似ていたこともあってか、


ちょくちょくと食事をする程度の仲だった。



「行方不明・・ってことですか?」


「えぇ。 ご一緒だったと伺いましたが、神谷さんは何かご存じでしょうか?」



櫻井と名乗った刑事によると、


彼の家族から届けがあり、


その行方を探しているという。


普通、警察が人探しのようなことでは簡単には動かない。


ただ、奥野の父親が警察関係者だったらしく、


つてをたよってたどりついた先が櫻井だということのようだ。



簡単に内情を話すところをみると、


僕が抱くであろう警戒心をときほぐそうという考えが見て取れる。




「彼とは、三日前に新宿の歌舞伎町の店で食事をしましたよ。」



僕は、


事実をそのまま告げた。


大学3年になったら所属を義務づけられるゼミナールの選択について、


相談がしたいと奥野から持ちかけられたこと。


そのついでに、久しぶりに新宿あたりで飲もうと話をしたこと。


僕たちが何ヶ月かに一度飲みに出るのが、


いつも新宿だったこと。


彼と僕の住まいから、新宿は比較的アクセスしやすい街だったこと。




事実を並べて語っているつもりだが、


うまくはなせたかはわからない。



「それで、結局彼とは午後10時半くらいに駅で別れました。」



メモをとりながら聞いていた櫻井が、


そこで顔をあげた。




「10時半ですか?それは間違いないですか?」



その点については自信がある。



「はい。携帯電話で帰りの電車を調べましたから。」



飲みにでたとはいえ、


翌日、1限の講義が入っていた僕は、


日付が変わる前にベッドに入りたかった。



新宿から僕が住む町までは1時間弱くらいかかる。



寝る支度もあわせれば、


10時半くらいには新宿を出なければ、と思った記憶がある。



そして、その時間帯に、特別快速にタイミングよく乗れるよう、時間を調べたのだから間違いない。




「そうですか・・・。」



それから、


櫻井は、どのようにして僕のところまでたどり着いたかを説明した。




奥野の両親から届けがあった際、


いなくなる直前に、大学の同級生と新宿に行くという話を聞いていたと告げられたらしい。


その同級生が神谷という名前だったことも、


両親は承知していたようだ。



僕自身は奥野の両親とは面識がないが、


彼は、両親との関係が良好であるようなことをたしか言っていた。


それくらいは話をしていたかもしれないとひとりごちる。



あとは、実際に大学まで足を運び、


聞き込みを続けて、つい先ほど、僕が中庭でよく本を読んでいるという話を聞いたという。



「思っていたより早くあえてよかったです笑」



顔に刻まれた皺が、


彼のこれまでの苦労を象徴しているかに見えていたが、


案外人なつっこい笑顔を見せる。



「でも、奥野さんはいったいどこへ行ってしまったのでしょうね?」



大学生なのだから、


一日や二日、連絡がとれないことくらい普通だと僕は思った。


そのまま櫻井に伝えると、



「私もそう思ったんですがね・・・。」



気づけば、


僕は、


ある一つの事件に巻き込まれつつあるのだった。




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