朝焼けが、ビルの谷間をブルーグレーに浮かび上がらせる。


終わりゆく今日と、始まる今日の狭間の時間。

鮮明な情景と曖昧な意識は、一瞬、理の外側にいるような錯覚さえ感じる。



静寂






繰り返される日常




私たちは、小さな世界で毎日を送る。

その中で涙を流し、安息を求め、諦める日々を築いてゆく。

あるいは、光を求め、夢を叶え、幸せを紡いでゆく。


本能に従いその歩を進めることは、現実社会の規範とルールというものから逸脱してしまうかもしれない。

限られた範囲の中で変化を求め、失敗を繰り返し、落胆をし、また復活をするために、様々な感情のコントロールをしてゆく。



感情の起伏を、執拗に抑制し、あらゆる物事、事象にとらわれない生き方をすることは、一定程度の安定とはまた違う平静を保つ。

その一方で、壮絶なまでの心の葛藤を克服しなければならない。

日常とはかけ離れた衝撃的な出来事、生死の瀬戸際や言葉では言い表せない状況などを、経験してきたが故に、何かを失い初めて得るものかもしれない…。




耐えられるのかな…











当たり前の毎日


変わらぬ日常


ささやかな幸せを見付けて



例えば誰かの笑顔のために…



例えば涙を流す君のために…





一瞬が永遠に変わるその時に…





その一瞬のために生きていけるような、毎日を送りたかった…。



身を切られる程の美しく哀しい音を見付けたかった。




色彩はモノクロで構わなかった。




夜明けはこうしてやって来るのに…。


君の身体は冷たくなってゆく。


心の欠片は、粉々に…


覚悟はしてきたよ…


そばにいる僕の身体も冷たくなって…




いつかの温もりを思い出したよ…



一枚の絵のような君の微笑み…




今すべてが永遠になる…。




つかみ損ねた光の欠片。




もう離さない…。





昨日の雨はもう止んでいた。

わずかな風が、窓を鳴らせている。

僕は、椅子にもたれたまま、気付かぬうちに眠っていたんだ。



曇天の空が、夢が終わったことを告げていた…。


僕の心は、止まったまま…。




…君の声が今も耳の奥で聞こえる。



朝を迎えた今

色褪せることなく

すべてが永遠に変わる…



その物語の続きを見るために、

僕はまた目を閉じたんだ…。












眠りから覚めない朝

すべてが終わったはずなのに

恐怖が心を占有する

君は嘘をついたに違いない

さよならも言わずに行くなんて


僕は自分の信念で

自らの人生すべてを掛けて

この世界で戦ってきた


そうすることが君のため

そうすることが正しいと

ただひとつの疑いの

欠片も持っていなかった



君の笑顔を見たいがために

君のもとへと帰るために





かつて僕は、誰かのために涙を流した

人々の苦しみを解放するために、命を投げ出した


焼け野原でただ一人になったときも

これでいいんだと思っていたんだ



小さな命を奪ったとき

僕の心は痛みに震えた

それでも間違いではないと

自分自身に言い聞かせてきたんだ



やがて思いは逸走し

誰もが恐れる殺戮の兵器と成り果てた


黒いマントが僕の顔を隠す

血にまみれた両手だけが

唯一残されたもの

感情を持たない機械のように

悲しみの涙の意味すら忘れ

孤独と絶望を飲み込んでいった







どれほどの長い間

君は涙を流したのだろう


僕のことを愛してくれた唯一の人


どれほどの悲しみの中で

心を壊し続けたのだろう


僕のことを愛してくれた唯一の人


そんな大切な人に

僕は形を変えた痛みを

与え続けていたんだ




邪悪な力が満ち溢れ

黒い波が僕を連れ去る

粉々に破壊された精神は

尊い命を奪い去る


道を示す星もない

虚ろな瞳が僕を蔑む

下を向いて走り続け

それでも罪の衣は決して脱げない

立ち止まることも許されず

悲観する暇もないままに











赤く染まった空

硝煙の立ち込める朝

この戦いは終わりを告げた


何も持たずに歩き始めた

僕の心は最後の力で

君が僕を待っている家に向かった



懐かしい景色が見える頃

蘇る記憶の一つ一つが

ただ君に会うためだけに

僕を生かしていたことに気付いた





高鳴る鼓動を抑えて

家の扉を開けてみると

そこに君の姿はもうなかった


町中の人々が

口を揃えて教えてくれた


君がこの町を出ていったことを…








閉じた目を開くことができなかった僕は、ナイフで両目を突き刺した。


二度と戻れないあの頃の思い出だけで、残りの人生を過ごしたかった。


君の面影は今もまぶたに焼き付いているよ。


君を心の底から愛していた…。











何日か経って、僕は椅子に座ったままその生涯を閉じる。


僕を見つけた親友は、後にこう伝えた。


「彼は、つぶれた目から血の涙を流していたが、顔は安らかな表情をしていた」と…。



今、暗闇が僕を包んでゆく…。

夜半から降り始めた雨が本降りになった。

この夕暮れ時、灰色の曇り空。街のネオンを雨が煙っている。

行き交う人は、傘を片手に足早に通り過ぎる。


子供の手を引いて家路を急ぐ母親、小さいピンクのレインコートを着て、つられて歩く子供は、空を指差し何かを言っている。


カバンを胸に抱いたサラリーマンは、同僚たちと会話をしながら笑みを浮かべている。


若い男女は、足元の水溜まりを気にしながら、それぞれが携帯をなぞっている。

極めて現実的な世界の中で、雨が幻想的な時間を造り出している。




すべての動きがゆっくりと流れて。


路を走る車にヘッドライトが灯る頃、辺りは夜の街へとその顔を変えてゆく…。



掛かり降る雨…




暫くして、雨は細かな霧雨となり、僅かな風にも降る角度を変えている。


時の遊び時間

掛かり降る雨…



午前2時をまわる頃、雨上がりの静寂が訪れる。


雨の雫が、葉の上を伝って落ちる時、緑の匂いを街中に漂わせて…


静けさの中にある峻厳さを肌身で感じて…




今、季節が徐々に変わってゆくように、時代もまた、ゆっくりと移り変わってゆく…






皆様、いかがお過ごしでしょうか?


『陰』を基調にした題材ばかりを扱って文章を綴っておりますが、ティアメイデンは、まったくもって穏やかな日々を過ごしています。




季節の変わり目です。

五月雨が瀟々と降る中で、雨音に耳を傾けて…。



【 】のタイトルで、またお目見えしましょう。



たまさか登場の折なれど、良しなにご容赦。