ミケの話 2 | 南仏ーの生活

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あれは7月のとても暑い日。

ミケが駐車場に現れてから、毎日のように見てきたのに、ここ2日ほど見かけていない。

何かあったのかと心配していたら、ミャーと聞こえてきた。

 

見ればミケが裏山のかなり高いところから鳴いている。

何かを訴えているようにも見えたが、人間が登るには危険な高さだった(そもそも立ち入り禁止)ので見守っていたら、鳴きながら山の裏手の方に去って行った。

 

そしてその翌日。この日も猛暑だった。

またもやミャーミャー聞こえるので声の主を探すと、今度はうちの裏庭の門の前で鳴いていた。

いつもなら飛び越えて来るのだが、その日はただひたすら鳴き続けている。

 

門を開けてみたが入ってくるわけでもなく、よく見れば呼吸が荒い。

もしかして熱中症?と思い、慌てて家から水の入った小さな容器を持ってきたが、ちょっと顔を近づけただけで飲まない。

そういえば隣のお婆ちゃんの家の前にはミケ用の水がいつも置いてあるし、喉が渇いていたわけでもなさそうだ。

 

ミケはお婆ちゃんの家の前まで行ったと思ったら、またうちの方に戻ってきて、私の顔を見ながらミャーミャーと尋常じゃないくらい鳴いている。

これはおかしいと思ったが、触ろうとすると避けるので、見守るしかなかった。

 

結局ミケは、私の家の裏庭を通って隣の空き家の裏庭に入って行った。

 

うちと隣家の裏庭は元々はつながっていたらしいが、今は簡単な板2枚で仕切られている。

板は傾いているのですき間があり、ミケはそのすき間から隣の裏庭に移動した。

 

実は隣の裏庭には、冬場に私が設置した段ボールハウスが置いてある。

これは裏山の主であるタマちゃんのために用意したのだが、用心深い彼女は使ってくれなかったようだ。

とは言え何度か見知らぬ仔猫が寝ていたのを見たことがあったので、撤去せずにそのまま置いておいた。

 

そして今、ミケが鳴きながら段ボールハウスを覗き、躊躇しながらも中に入って行った。

当然箱の中でもずっと鳴き続けている。

 

 

とても心配だったが、何をしてあげられるわけでもなかったので家に入った。

しかしやはりどうしても気になったので、夜、暗くなってから夫に事情を話して、一緒に隣家の裏庭を覗きに行った。

 

小さな声で「ミケ」と呼ぶと、段ボール箱の中から小さな声で「ミャー」と答えてくれた。

その後「ゴボゴボ」という謎の音が聞こえた。

夫は「中でキツネにでも食われてるんじゃない?」などと意地悪なことを言っていたが(当然シカト)、とりあえずミケが生きているのは確かなようなので、少し安心した。

 

さて翌日。

隣家の裏庭との仕切り板のすき間から段ボール箱を覗くと、ミケと目が合った。

 

生きている。

あー、よかった。もう鳴き止んでるし、何があったかわからないけれど、もう大丈夫だろう。

 

その数時間後、夫が友人たちと泊りで出かけるので、荷物を車に運ぶのを手伝ってほしいと頼まれた。

夫の荷物を運びながら、またミケの入っている箱を覗くと、ミケの小さな鼻先が見えた。

 

 

あら、ミケ、随分小顔になったのね。。。

 

 

違ーーーう、仔猫だ!!

 

 

ここでいろいろ思い出した。

初めて会ったとき、ミケは交尾していた。

隣のお婆ちゃんやうちの子供がミケのお腹を触ろうとして噛まれた。私もガッツリ噛まれた。

近所のSさんは妊娠を疑っていたが、ミケは体が小さいからそんなことはないと思っていた。

昨日鳴いていたのは陣痛だったのだろう。

いつもなら裏庭の門を飛び越えて来るのに、昨日はジャンプしなかったし。

 

笑っちゃうくらい伏線が回収されて、一瞬爽快な気分になった。

 

しかしどうしよう、猫って多産だよね?

行く末を案じなければならない猫が増えちゃったよ。

 

パニックになった私をよそに、夫はウキウキしながら出かけて行った。

その日は金曜日。しかももう夕方。

役所は閉まっているだろうし、保護猫の団体もおそらくもう閉まってそうだ。

 

絶望にも似た気持ちで、隣家の裏庭に立ち入って箱を覗いて見た。

 

 

あ、天使❤

 

 

 

 

 

ミケは出産でぐったりはしていたが、顔は心なしかスッキリして見えた。

そして誇らしそうでもあった。

そっと指を顔に近づけると、怒ることなく触らせてくれた。

 

きっとお腹が空いているだろうからと、家からカリカリと水をを持ってきて置くと、ミケが箱から出てきた。

 

その隙にミケに怒らせないように注意しながら箱の中を覗くと、どうやら仔猫は2匹。

思ったよりも少なくてホッとした。

 

2匹なら、何とか貰い手を探せるかもしれない。

 

ミケはまだお疲れだろうから、早々に隣家の裏庭を後にして、市内の保護猫の団体のサイトから、ダメ元でメッセージを送ってみた。

あんなにかわいい仔猫ちゃんたちだもん、きっといい人が貰ってくれるよと、淡い期待を抱きながら。

 

 

 

ところで昨晩聞こえたゴボゴボ音はなんだったんだろう?