人事制度の成功確率を上げるには?成果定義・白けのイメトレ・ネーミングの「OKゴール」モデル | デキタン(できるヤツ探求アメブロ)

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ソヤマン(サイバーエージェント人事統括・曽山哲人)のブログです。

新R25の「しくじりランキング」企画で、サイバーエージェントで失敗した人事制度を取り上げてもらいました。YoutubeやTwitterなどの反響が想像以上に大きくて、動画パワーに驚いています。

 

 

今回のしくじり企画と新R25の渡辺編集長の切れ味あるインタビューのおかげで、失敗した人事制度を楽しく振り返ることができました。失敗の振り返りというのは、「今だから笑える」ということもあれば「思い出すとやっぱりつらい汗」というものが混在するのですが、改めて見てみると成功している制度も失敗のおかげで成り立っていることがわかりました。

 

今でも、新しい制度に取り組む時には頭を悩ませます。当然ながら新しいということはマニュアルもないし、正解もありません。それでも過去の失敗と成功体験を踏まえて、少しづつ打率を上げる方法を増やしてきました。今回の記事が良い機会だったので、人事制度の成功確率をあげる方法をまとめてみました。

 

 

 

人事制度の成功確率を上げる、「OKゴール」モデルというものです。

 

OKゴールというのは、「どうなればOKなのか、到達点であるゴールを明確にする」という意味があります。すべての人事制度や社内の新しい取組やキャンペーンでは、これがあると成功確率が上がり、これがないと迷走や混乱を生むことがわかりました。

 

このOKゴールモデルは、3つの大きな柱があります。

 

OKゴールのポイント 「成果定義、白けのイメトレ、ネーミング」

 

■成果定義

 

一番最初のステップです。この人事制度や取り組みで得たい成果は何なのか。「どうなればOKなのか」というOKゴールの言い換えです。

 

人事制度は、解決すべき課題から始まります。会社や組織が狙っている目標に向けて、足りないことは何なのか。正直足りないことがないなら、人事制度を新たにやる必要はありません。あくまでその課題を解決しないと狙っている目標が作れないときに、初めて取り組むべきだと決めるもの。

 

逆のパターンは、目に入った手段や制度から入るパターンです。たとえば本を読んだ時に面白い制度や取り組みがあったから実施しようというのはまさに手段から入るパターンであり、「手段の目的化」と呼ばれるワナです。

 

「この取り組み面白い(知らなかった!)!」→「やりたい!(面白そう!)」→「自社のあの課題も解決できるかも!(絶対いける!)」みたいな流れは、ずばり良くありません。まず、本や他社から学ぶことはぜひやるべきですが、知ったことをマネしたいと思ったら、まずは一度立ち止まって考えるのがおすすめです。仕事における学びというのは「何かあったときに、使える選択肢を増やしておくこと」であり、課題がないのに使うことが目的ではないからです。

 

人事制度は目的ありき。経営課題は何か、目標に対する課題は何かというのを明確にすることが先です。例えば「退職率が30%だと業績アップにつながらない。これはさすがに高すぎだから改善したい」などが経営課題から生まれる目的であり、「退職率をとにかく下げる。10%台にする」などが成果の定義となります。

 

成果定義ができたら、ここで初めて解決策を考えます。手段の目的化ではなく、目的(成果の定義)が先に決まる場合、大きなメリットがあります。それは、「解決策をたくさん考えられる」ということです。

 

手段が先に決まる・・・手段はひとつだけで、無理に目的や課題にはめようとする

目的が先に決まる・・・目的や成果が得られれば、やり方は何でも良くなる

 

手段から入るのがなぜダメかというと、上記のように解決策が一つしかないので、無理をすることが多くなります。柔軟性に欠けて、運用力でもカバーすることができません。逆に目的が先に決まれば、たとえ最初にやった解決策が上手くいかなくても、柔軟に変更することができます。変化対応力に差が出るので、結果的に成功確率が大きく変わります。

 

良い案が思いついたり、複数案で迷うときには、「一言ヒアリング(ひとことヒアリング)」が有効です。自分のアイデアを、社員に話して反応を見るというもの。制度を利用する側である仲間や社員に 「こういうのどうかな?」とひとことで聞いて、「いいですね!」と伝わるかということです。たとえば「(新規事業の打率を上げるために)役員が新規事業バトルをやるというのはどうかな?」などのような投げかけです(あした会議の例)。

 

 

自分のこれまでの経験で言うと、これをやると「いかに伝わらないか」を強烈に痛感します。「え?よくわかりません(全然伝わってない)」「それってこういうことですか(意味が違う)」などの反応はよくある話です。そこでその場で表現を長めにして変えたり、たとえば絵をかいて説明するとかしてようやく伝わることも。私はこういう反応をもらった時点で、「この制度は失敗する可能性が高い」と素直に受け止めるようにしています。なぜならたった一人でこの反応なら、まったく違う誤解が人の数だけ生まれる可能性があるからです。

 

一言で説明できないことはやらない。「こういう課題に、こういうアクションをやろうと思う」というセリフで伝わるものなら、芯を食っているといえます。しかし人事制度というのは情報格差が生まれやすいもの。設計する人は成功のために必死に考えて細かいところまで制度設計をしますが、運用する人はそんなことを気にする余裕はありません。これは設計と運用の情報格差です。設計者と運用者は違う。このことを頭に入れておくだけでも、成果定義をシンプルにやろうという意欲が出てきます。

 

■白けのイメトレ

 

人事制度の骨格ができたら、次は運用の設計です。その際に効果的なことが「白けのイメトレ」です。

 

「白けのイメトレ」というのは、制度を利用する人の白けをイメージトレーニングすること。白けというのは、幻滅したり、興ざめするような反応です。せっかく制度を作っても、前向きに使ってもらえないと意味がありません。何かの制度を始めたことで白けるようなら、むしろやらないほうがいい。

 

いざ運用を開始してから白けに気づくというのは、設計した人も運用する人も嬉しくありませんし、もちろん業績にもプラスになりません。だからこそ、運用を開始する前に、時間も手間もかけて白けのイメトレをすることがとても大切です。

 

白けのイメトレは、「どんな人に、どんなセリフの白けが生まれるか」というのが基本です。

 

たとえば新しい評価制度を始めるとした場合の例で考えます。ホワイトボードやスプレッドシートを使って書くのがおすすめです。

 

1)縦方向に、利用者の属性を書く。役員、評価者、メンバー(評価される社員)などなど

2)白けのセリフを書く。それぞれの属性の人が白けを言うとしたらどのようなセリフか

 

役員 「フォーマットが見にくい」「・・・」「・・・」

評価者 「評価項目が多すぎる」「・・・」「・・・」

メンバー 「そもそも振り返りや対話をしてくれない」「・・・」「・・・」

 

などのセリフを、運用を開始する前に徹底的に出します。この作業は本当に苦しく、辛いのですが、人事制度で失敗するケースで多いのは、対処療法しようと思うけどできないワナ。リリースしてから出てくる声に、ひとつひとつ対応しようとすると、時間がかかったり対応できなかったりして失敗になってしまうというものです。

 

苦しい作業ですが、あくまでさきほど考えた「成果の定義」のため。これができれば明るい未来があるはずです。なんのためにやるのか、どんな課題が解決できるのかなど、意味をきちんと頭に入れたうえで白けのイメトレをやると、成果のために粘り強く白けのイメトレをすることができます。

 

白けのイメトレができたら、対処するセリフの絞り込みを行います。くれぐれも最初に決めた「成果の定義」や目的のために、このセリフだけは対応しておかなければ成功できないというものを抽出し、そのためのアクションを考えます。たとえば管理職の「評価項目が多すぎる」ということが抽出できたら、思い切って項目を減らすなどの決断をする。この判断も「成果の定義」から逆算して判断すれば、必要かどうかを決めることができます。

 

白けのイメトレでだいぶ成功確率は上がっているはずですが、もう一段、運用面で成功確率を上げるコツがあります。それは、先に撤退基準を決めておくことです。いつまでにどうなっていたら成功か失敗という、「失敗ライン」を決める。成果の定義によって狙いたい成功ラインというのは考えられていますが、どこが失敗なのかを決めておくことが重要です。人事で気をつけたいのは中途半端に運用されているゾンビ制度をいかになくすか。ゾンビ制度は本当に諸悪の根源で、社員からの反応も悪いし、使われてもいないのに作業は残ったりしているため、不満ばかりが増えていくものになります。

 

先に失敗ラインや撤退の基準を決めておくことで、そもそもスタート時点からその基準に触れないように工夫しようという意識も働きますし、努力しても失敗ラインに触れた場合には思い切ってやめようという判断をすることができます。思い切ってやめれば、その瞬間こそショックもあるかもしれませんが学びも増えるし、ゼロから考えられるので、これまでの成果定義に向けて新しい策をためす時間的余裕も生まれます。自分のプライドで中途半端なゾンビ制度を残すことではなく、チームの勝利のために勇気ある撤退をして次につなげる。失敗ラインを先に決めておくことで、柔軟性も上がります。

 

■ネーミング

 

人事制度を成功で終わらせず、大成功させるために必要なことがネーミングに力を入れることです。

 

人事制度は流行らなければ意味がない。成果を定義している以上、その成果を出さなければ人事の業績になりません。だからこそ、使われるものにしなければいけません。対外的にリリースすること、出すことだけが目的ではありません。

 

あした会議:経営陣と社員が一緒になって未来を創る会議

キャリチャレ:社員が自分のキャリアを他部署に挑戦できる異動のしくみ

macalon:妊活や育児社員の支援制度(ママがサイバーでロングに活躍の意味)

 

たとえばサイバーエージェントでは上記のような制度がありますが、ネーミングによる効果がいくつもあります。まずは流通のしやすさ。語呂がよかったり口触りの良いネーミングだと、いろんな人が使ってくれます。制度を利用しようと思ってる社員が「〇〇って使った?」などの会話をしたり、「〇〇を使います」などと申請するときに会話に出たりします。

 

採用にもプラスになります。良いネーミングであれば、説明会などでメモをしてくれる可能性が上がります。制度の内容を覚えていなくても、ネーミングだけメモをしてもらえれば後で調べてもらって、自社のことをもっと理解してもらえるかもしれません。また内定者から、ご家族や同級生に伝えてくれれば自社への印象が良くなったり、応援者が増える可能性も上がります。

 

人事制度をリリースした後は、「ネーミングを視界に入れる」というのも成功確率を上げる重要なポイントです。視界に入れることで、使ってない自分を思い出して利用したり、周囲につかってみることをお勧めしたりしてくれるようになります。

 

良いネーミングであれば、上記のように社員同士が会話で使ってくれるので「ネーミングを使っている人」というのが視界に入ります。まずはこれが一番大事。次にポスターや社内のサイネージ、社内報などで告知するというのもネーミングとその制度が視界に入り、興味を持ってもらったりすることができます。

 

視界に入れておくために注意すべきことは、「鮮度が大事」でということです。人事制度は最初が肝心です。最初から失敗してる印象があると、あとから盛り返すのは無理ではありませんが難易度が上がります。だからこそ、初速で盛り上げることが大事です。

 

初速での盛り上げには「デイリーチェック」が効果的です。リリースしたその当日から日次でどれくらいの反響があるかを目標を事前に決めておいて、毎日チェックする。よければどんどんそれをあらゆるところでシェアをしていくというものです。たとえば新規事業コンテストであれば、その勉強会の応募がどれくらいあるかなどの目標を決めて、最初の1週間などのデイリー目標を決めておく。予想よりも良かったら「もう〇件、参加応募がありました!」などを社内でシェアして、より応募を増やしていくというものです。

 

すごいリーダーは、少ない言葉で人を動かす。人事に限らず、すごいと思える経営者やリーダーの人は、少ない言葉で、多くの人を動かすことができます。ピンとくる言葉だと胸に残りつづけますが、ダラダラと長い話の場合はわかりにくいだけでなく、時間を奪われた気にもなるので印象良くありません。言葉を磨くには、良い言葉に触れること。そのためにもたくさんの読書をするなど、文字を読む量を増やすしかないと思います。ネーミングとは言葉の開発であり、ここに時間をかけることで成功確率が大きく変わります。その制度の背景にある思いや意味を踏まえてよいネーミングができれば、利用されるだけでなく社外からも反響が大きくなり、大成功の人事制度につながります。
 

人事制度の成功確率を上げるには、OKゴールが大事。

 

今後も社員の力を引き出せるような、大成功の人事制度を生み出していきます。