「そろそろ、行くか」

「はい!」

飲み終わったものを片付け、俺たちは目的地に向かった。

「結局、進路はどこにしたんだ?」

「えっと…やっぱり防衛大学校は止めたっす。で、体育学部があるところを絞って受けようかと」

防衛大学校を目指していると聞いたあの日、自分に相談がなかったことに胸がざわついた。
もしかしたら真行寺は俺が卒業した後、全てを忘れて別の道を歩き…そして俺のいない未来を見ているのかと…
だが、あの卒業式の後に父さんに思いをぶつけてくれた。

『オレ、アラタさんのことが大好きなんです!お父さんには申し訳ないですが、アラタさんを誰にも渡したくないんです。オレ、アラタさんが大切で、アラタさんだけが特別なんです!』

あの時、全ての不安が消えた。
俺の見る先と真行寺が描いてる先に、二人の未来が共にある…そう思えた。
その未来を夢見ることで、潰してしまうことになる
『子を持つ未来』
せめて、その他は叶えてやりたい…

だからこそ、今日はその傾向と対策を探しに来た。
体育学部…ということは、教師になりたいのか?

「真行寺はなんで防衛大を志望から外したんだ?」

俺の質問に頭をかきながらバツが悪そうにボソッと答える。

「オレ、アラタさんが一番だから…」

「質問の答えになってないが…」

一番だとなぜ受けないということになる?

「アラタさん…今答えないとダメっすか?」

「ここじゃ言えないのか?」

「そうっすね…書店の中で言うのはちょっと…」

へぇ、お前にもTPOがあるんだな。

「わかったよ。じゃ、今はその体育学部向けのテキストを探そうか。まぁ、基本的な国語、数学、英語を押さえればどうにかなるはずだ。後はきっと実技?俺の仲間にそういうところを受けたやつが居ないからハッキリとは言えないが、詳しくは松本先生辺りに聞けば教えてくれるだろう。お前のことだ、その辺りは確認して来たんだろ」

「はい!無駄な時間は省きたいんで…なので、今日はその三科目をまとめたものがあればと思ってます…アラタさん、よろしくお願いいたします」

そう…今日は真行寺が卒業式の日に電車の中で願い出た参考書探しの日。
まだ部の引き継ぎが終わっていないため、土日は下界に降りることが出来ず、実家に戻ることになるゴールデンウィークを指定してきた。
俺もまだ学生…休みはある。
まぁ、病院もカレンダー通りの休みだから先生方も担当日以外は基本的に休みだ。

だから真行寺は、今回も母達の強い希望により我が家に泊まることになっている。

「俺も似たようなものを使ったから、その出版社で探すことにしよう。お前にも分かりやすいものがあるさ」

「はい!頼りにしてるっす!」

分かりやすい…まるで誰にでも解けるみたいなことを言ったが、俺は知ってるんだよ。

お前が学年で必ず5番以内に入ってることを。
ほぼ推薦で受かる状態なのに、
それでもしっかりと学科も手を抜くことなく向かう…そういうところが真行寺らしい。

「学部も絞ったから、探しやすくなったな。じゃ、行くぞ」

慣れ知った書店のそのコーナーに真行寺を促し、参考書探しをすることに。

「一人で探すのはつまらないけど、アラタさんと一緒だとメチャメチャ楽しいっす!久々のデートっすね!あ、オレちゃんとこのシャツ着てきたっすよ!」

参考書コーナーに足を踏み入れたと同時に爆弾を落とす真行寺。
シャツのことなんか、あの待ち合わせの時に直ぐにわかったさ…
あれほどに記憶に強く残ってるものを、忘れるはずないだろう。

そのシャツの襟元を引っ張り俺も負けじと爆弾を落としてやる。




「そうだな…俺も楽しいよ、真行寺」