「そう言えば、お前の母親は出版社務めだったな…」

「そうなんです」

「それと、アイツとなんの関係がある」

「そ、それは…母さんじゃなくて、その雑誌の切り抜きを見たらしくて…それで入院してるときに、声をかけられたんです。きっとそれを看護師さんたちは見てたんでしょう。
オレは本当にテレビを見に行ってたんだ。だけど、必ずその時間に合わせてくる。それがどうズレても…。
しかも、アラタさんが来るだろう時間に合わせてオレに話しかけてたって…。
だから、アラタさんに会えなかったのは、あの人がオレを引き留めてたから…。
もしかしてオレがあの人との話してるの見たことあります?」

ほんとに、策士だった…。
『アラタさんが来るときに…』
これはさっき初めて知ったこと。

あのときにアプローチされて断ったら、
『なら、キミとよく話してるあの綺麗な子でも良いんだよ』
そう、言われた。
だから、声高らかに

『あはは、ダメっすよ!あの人はおっかいないですから!』

そう、笑ってごまかした…。

毎回出されるその文句。
この人は本当にやるかもしれない。
それを交換条件としてアラタさんに何かを吹っ掛けて、仕方なくそれをアラタさんが了承したら?

「あぁ、見たよ。楽しそうに見たことないくらい笑ってた。お前、あんな風に笑うんだな…」

「アラタさん…。よく見てるっすね。
オレがあんな風に笑うわけないでしょ…誤魔化し笑いです…あんな馬鹿笑い…オレが全てを晒してるのは貴方にだけだ…」

「じゃあ…何故今回、アイツのところへ…」

「あの人、アラタさんがオレに声をかけて消えた後…『キミのことをちらつかせて、あの子にアプローチしようかな…それにあの子なら抱いても楽しそうだ…』そう言ったんだ…。
追いかけたけど見つからなかったアラタさん…メモを置いて姿まで消してしまった。

アラタさんをアイツのところへ行かせないためには、オレがアイツのところに行くのがベストだった…。ごめん…たかが、雑誌の撮影だったけど、それでもアラタさんに迷惑をかけるわけには行かなかった。
副業なんて噂されたら…アラタさんの名誉に傷が付く…オレなりに考えた結果だったんだ…。
さっき電話もらった時の声は、その写真を撮った後のもの。別に疚しいことはしてない。
誓ったっていい。あの人は業と貴方に聞かせたんだ。貴方に嫉妬を抱かせて、隙あらば…。
それもスルッと懐に入ってきて、違和感を感じさせることなく…。ギイ先輩もそんなところはあったけど、あの人は違う…。動物で例えるならギイ先輩はライオン…あの人はハイエナ…だからアラタさん…あの人には近寄らないで…。オレのゴメンはこれで最後。どう?納得できた?」

オレはあの人のことを全部アラタさんに晒した。

でも、オレは忘れていた。
帰り際にするはずだった交渉…
だが、その時は思い出すこともなかった。