駒澤に礼を言ってくると伝え、オレは家を出た。

「駒澤!」

「おお、真行寺」

午前中までが学校だと言う駒澤を呼び出し、俺は礼だと言ってランチを奢った。

「この間はサンキューな!ほんと、助かったよ」

「礼を言われることはしてない。あのくらい、友達なら当たり前のことだ」

表情を崩すことなく当然だと言う友人を持ったことに、オレは感謝した。
これも、やっぱり葉山さんやギイ先輩、アラタさんのお陰なんだろうな…。

「それでも!オレが助かったのは事実だし!だから、今日は何でも食えよ!」

格好いいことを言いながらも、連れてきたのはファミレス。
まぁ、学生だし…そのくらいは我慢して貰おう。でも、最近のファミレスは普通のレストラン並みに値段が張ってる…。ただ、助かるのはドリンク飲み放題とサラダ食べ放題。
体育会系のオレたちにはもってこいだ。
部活のことを話しつつ、進路のこと…野沢さんのこと…そんな話をして家に向かった。
ーーーーー
「真行寺くん!」

声をかけてきたのは、例の人。
せっかく無視して帰ろうと思ってたのに…

何度も会いたいと連絡してくる人。
そのアピールは入院していたときから始まった。

電話番号も教えていなかったのに
何処から調べたのか、ある日オレの携帯が鳴った。

ーーーーー
『久しぶりだね!足の具合はどうだい?』
ーーーーー
それは病院での人懐こさと同じで、不快を与えないものだった。
だから一度だけ、お茶に付き合った。

それが最近じゃ頻繁だ…。
それもドンドンアピールが強くなる。
今日もメールが届いてた。だけど、スルーするつもりだった。
だから、ランチも時間を引き伸ばしてたのに…
見つかってしまった。

「こんにちは」

「もしかして、用事があったのかな…ごめんね、決定事項のようにメールしてしまって…」

すまなさそうに言う姿に
オレは正直に話してしまった。

「いえ、今終わって帰るところでした」

言ってしまってから、しまった!と思った。

「なら、今から付き合って貰っても大丈夫だね」

この人は策士だ。頭がいい。
いや、社長をしているくらいだから当然なんだけど…

どうしよう…
オレ、掌で転がされてるんじゃ…
仕方なく、前回のカフェに促されオレはお茶に付き合うことになった。

そしてコミュニケーションが上手いこの人…
でも、オレはそれに合わせるのが精一杯で…
心の中で早く帰りたいと思いながら、話を聞いていた。

そこに突然肩を掴む人。

「浮気はバレないようにするんだな、真行寺」

その声は大好きな人で…
浮気?
誰が?
訳のわからないことが頭を占めた時には
もう、アラタさんの姿は見えなくなっていた…


「真行寺くん?大丈夫かい?」


ーーーーー
慌ててドアを開け後を追ったけど、何処にも姿はなくて…
二人の部屋に入るとそこは真っ暗で…
電気を入れて一番に見たものは


「しばらく、大学に泊まる。好きにしろ」


オレは鎖を外されたのか?
アラタさん…

電話をかけても、電源は落とされたままで…
オレは

『バレたって良いじゃない。それで何かあっても面倒見るよ…』

アラタさんに会えなくなったオレは
数日後、そう言ったあの人の元に足を向けた。