「三洲くん!」

カフェで先に待っていた葉山が俺を見つけ、手をあげる。

「すまない、待たせたな」

こいつのことだ、きっと15分は待っただろう。

「ううん、ぼくも今来たところ。それより、何飲む?」

そんな謝罪すらも軽くスルーして、メニューを渡す。

「じゃ、オレはミルクティで」
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「ねぇ…三洲くんと真行寺くんって、ちゃんと付き合ってるよね?」

ゴホッ!

「なんだ突然…」

急に振られた言葉にミルクティを吹き出しそうになった。
祠堂の時からそうだが、こいつには文脈がない。
話し始めなのにも関わらず、最後の言葉を吐き出す癖がある。

まぁ、いつまでも結果に辿り着かないヤツよりは数倍マシだが…それでも内容を拾うのは容易くない。

「あ、ごめん!えっと…なんて言うかさ…」

「そこまで言ったならハッキリと言え、葉山」

うん、そーだね…と頷き俺の顔色を窺いながら話し始めた。

「あのね…この間、楽譜を探しに街に出掛けたんだ。そしたらね、その店の近くにおしゃれな喫茶店があったんだけど…」

今度は結論からかなり離れ始めたが
こいつの頭の中では纏まっているものだろうから俺はそれを想像しながら話を聞くことにした。

「それでね…その日は少し暑い日で、喉が乾いたぼくはその店に入ろうと思ったんだ。そしたら…その店の奥の方から聞き覚えのある声が聞こえてきて…ほら、ぼくって耳だけはいいから…。で、そこを見たらやっぱりその体格にも見覚えがあって…で、その二つが合わさって『あ、真行寺くんだ!』って思ったわけ。なんで直ぐに気づかなかったかって言ったら…聞いたことないような笑い声で、話してたから…。三洲くん、あんな風に笑ってる真行寺くんをみたことあるかい?」

あんな風…それがどんなものか…見ていないからわからないが、きっとあの日見たものと同じ…そう思った。

「いや…真行寺が声を上げて笑うなんて、お前が知ってるものと変わらないよ」

そう、アイツが大きく笑う…それは祠堂の奴らと居るときくらい。それでも、それも見たことがあるもの。だが、あの日に見たのは…

「じゃ、余程昔からの知り合いなんだね…そっか…それなら良いんだ。ぼく、てっきり…」

「てっきり、なんだ?」

「うんと…うまく言えないけど…真行寺くんらしくないから、何かあって弾けてたのかな?なんて…あ、そう言えば怪我もしてたんだよね…それで昔の知り合いとお茶して、ストレス発散?って感じだったのかな…。あまり気にしちゃいけないと思って…結局その店には入ったけど、直ぐに出たんだ」

葉山…なぜそこでいつもの天然を発揮しない。

『真行寺くんじゃないか!怪我の具合はどうだい?あ、ごめん…お友だちの邪魔しちゃったかな?』

そう言われたら真行寺も、そいつの素性をお前になら話したかも知れないのに…

まぁ、そこが葉山足る所以か…。
結果、その日…
葉山とどんな話をしたか、全く記憶にないまま帰宅した。
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「寝てるのか?」

リビングに入ると、テーブルに突っ伏して寝ていた真行寺。

"ピロン"

「この間は楽しかったよ!でも、もっと本当のキミを知りたい…素敵な時間をありがとう。今度は、来週の水曜日。同じ店で同じ時間に…。では、おやすみ」

テーブルに置かれたそこに、光…現れたもの…
見るつもりはなくても、照らされた文字は俺の視線に入ってきた。

『もっと本当の…』
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「もしもし…この間の店と行った時間覚えてるか?」

俺は寝室から、さっき見送ったばかりの葉山に電話した。