「お世話になりました!」

今日は真行寺の退院の日。
俺の休みに合わせて貰ったから、荷物も一緒に運べる。

「しかし、ほんと…キミは…」

俺の顔をみて、まだ何か言いたげな外科の先生だったが…その視線は真行寺に向いた。

「まぁ、帰れたからといってムリはしないように。それと…学校には報告したのかな?」

そう、これは言うなれば傷害。
だが、警察に報告することはしたくないと…真行寺は言った。しかし、放置するわけには行かない。また誰かが犠牲になる可能性もあるからだ。

「はい、一応…。ただ、向こうも反省してるらしく…だから、しばらくは部活も休ませて貰います。ここで、ムリして後で後悔するのは嫌ですから…」

「ま、それが賢明だな。兎に角…不都合が出てきたらちゃんと調べて貰って。なんなら、ここに紹介状書いて貰ってもいいからね」

「ありがとうございます。じゃ、本当にお世話になりました!」

そんなやり取りをし、俺たちはマンションに帰った。
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久々に二人で座るリビング。

「色々と、ありがとうございました」

杖を付きながら立ち上がり頭を下げる真行寺。

「座れよ。それに礼を言われることはしてない。お前を病院に連れて行っただけだ。礼を言うなら家に送ってくれた駒澤に言え」

「でも、アラタさんが帰りに覗いてくれることが、オレは嬉しかったよ」

それでもお前は居ないこともあったがな…
またしてもチラつく、真行寺の笑い声…

「真行寺…病院に知り合いが居たのか?」

我慢できず…とうとう俺はここ数日、頭を占拠していたことを口にした。

「いえ、知り合いは居ませんでしたけど…」

だが真行寺から出てきたのは、聞きたかったものではない言葉だった。
なら、彼は…一体…

「そうか…」

「オレの知り合い入院してたんすか?」

何、すっとんきょうなことを聞いてるんだ…
そんなこと、俺が知るわけないだろ。

「そんなこと、知るわけないだろ…」

「ですよね?アラタさん、忙しいのに来てくれてたんですもんね。すいません、変なこと聞いて」

もうこれは確かめるしかない…だが、どうやって…
普通に聞いたんじゃ、はぐらかされるかもしれない…そうだ!

「そう言えば…お前…談話ルームで長身のイケメンと、かなり楽しそうに喋ってたって看護師たちが羨ましがってたぞ」

なんのこと?と、そんな表情…
まさか、覚えていないのか?
それとも、隠すつもりか?

「えっと…誰だろう…」

「そんなに思い出せないのか?かなり何度も会話してたって話だったが…」

「アラタさん、もしかして焼きもち?大丈夫っすよ!オレはアラタさんしか見てませんから!」

そうじゃない…
そこを聞きたい訳じゃない…
ただ、お前が全てをさらけ出す程に会話できる相手が居たことに、俺は…

「わかった…それ、忘れるなよ…」

俺は結局…真実を知れないまま、
この話に蓋をしてしまった…

二人がその後に会う約束をしていたことなど、露も知らずに。