泣き止むまで、ずっと抱きしめていてくれた人。
「ありがとうございます…」
「もう、良いのか?」
ぶっきらぼうの中に、優しい光を持つ瞳。
「はい。ありがとうございました、三洲先輩」
「構わないさ…」
お礼を言ったのに悲しげな表情…
「あ、あの…お礼に…天蕎麦食べに行きませんか?」
「礼をされることはしてないが、腹は空いたかな…」
「なら!いきましょう!」
その人の手を引いて…
オレは食堂に向かった…。
冷たい手…でも、温かい手…そんな優しい手。
ーーーーー
「初めて来たんで…旨いかは、わかんないですけど…」
「こういうところの食事は、案外と旨いんだよ。そう言えば祠堂の食堂も美味しかったな…。天蕎麦かぁ…」
「あ、あの!その…オレと三洲先輩って、年齢が違うのになんでルームシェアしてるんですか?」
どうしても確認したかった…
ずっと気になってた…
だから、口にした。
「それは…あれだ…俺が頼んだんだよ…独り暮らしをするって場所を探してたお前を、『家事をしてくれるなら折半でシェアしよう』ってな…すまないな…結構助けてもらったんだよ…お前には」
「そうなんですか…あ、あの…それでですね…」
「なんだ?」
「言いにくいんですけど…そのシェアを…白紙にしたいんです」
「…白紙に…」
「はい。オレ、こんなですし…迷惑かけそうだし…母さんも気になるし…。何しろ中学生だし…三洲先輩のところに行ったって、何にも出来ないで邪魔になりそうだから…」
「邪魔だなんて…」
「だって…三洲先輩ってお医者さんの卵なんでしょ?そんな人の時間を潰せないです…だからオレ、近々荷物運び出しますんで…ほんと、こんな形でごめんなさい。でも…きっと誰かが現れますよ…。三洲先輩なら女の人も放って置かないでしょ…」
「…わかった…ただ、俺が居ないときに頼む。さすがに手伝えるほど余裕はないから…」
「お世話になりました…」
オレはそうやってルームシェアを解約した。