「親御さんは来られたのかい?」

俺は生徒会長のそれで会話することにした。

「いえ、あ、でも…連絡はついたらしくて…。きっと近々くると思います」

近々だと?交通事故にあった息子を放ってまでやらないと行けないものがあるのか?

「そっか…でも、連絡ついて良かったね!真行寺くんのおうちをピンポン!ってしないと行けないかなって思ってたんだよ?ふふふ」

「葉山先輩、オレの家知ってるんですか?」

「え?知らないよ?」

「じゃ、ピンポン出来ないじゃないですか」

あははと二人でそれを想像しながら笑う姿は
いつもの状況にしか見えなくて…
そこに入れない俺は、ただ傍観するしかなかった…。

「それはそうとさ…今日はね、良いものを持ってきたんだ!」

そう言って取り出したのは葉山の武器そのもの。

「それってバイオリンですか?」

「そうだよ。一応先生には許可を頂いたんだ。聴いてみるかい?」

そこには、ワクワクとした表情の後輩が。

「はい!是非!」

その言葉をスタートに葉山は
いつものように構えウォーミングアップし、演奏を始めた。

それはあの『愛の挨拶』
何度も、何度も俺たちに聴かせてくれた『愛』

演奏が終わると

パチパチパチと拍手をしながら
真行寺は涙していた。

「どうだい?何か思い出した?」

その涙に何かきっかけがあったのかと、葉山が訊ねる。
だが、出てきたもの


「初めて聴くバイオリンがこんなに綺麗な音だと思わなかったです。ありがとうございました!葉山先輩!」

それは、普通に音楽に感動したと
先輩という葉山に向けたものだった。
ーーーーー
「ごめんね、三洲くん…」

帰り道に葉山が放ったもの。

「何がだ?」

「だって…あんなに聴いてたはずのバイオリンすら、きっかけにならないなんて…ぼく、甘かったよ…結構自信あったんだけどなぁ…」

なるほど、バイオリンで記憶が戻らなかったことに対する謝罪か…

「お前が謝ることはないさ。こればかりは、どうにもならない…時を待つか、諦めて前だけを見て歩くか…どちらかだろう…神のみぞ知るって奴だよ」

「神様っているのかな…」

葉山も崎と会えない
俺は真行寺を掴めないかも知れない…

「居て欲しいと、こんなときは願う…人間て 浅ましいな…」

「ごめん、そんなつもりで言ったんじゃないんだ…三洲くん、言霊を飛ばそうよ!みんなでよく言ったよね!辛いときは『言霊を飛ばそう』って。願いは口にしてこそだって。だから、今回も…『真行寺くんは戻ってくる!』そう飛ばそう!」

「そうだな…」

励ます葉山の頭にポンと手を乗せ

「ありがとう…」

そう言うのが精一杯だった。
それ以上言ってしまうと…
溢れてしまいそうで… 

俺の気持ちと、景色を揺らしていたもの…。
それらが、それらこそが真行寺を求めるものだった…。