オレの願いを叶えるべく向かったのは
プリクラが置いてあるところ。
そう、アラタさんとまだ一枚も撮ったことがない。
いや、撮る必要があるのかと言われ諦めていたと言うところかな。
なにしろ、それだけオレはアラタさんを追いかけ…アラタさんを見つめていた。
写真を見るよりは本物。それは間違いない。
でも、やっぱり撮っておけば良かったと…
高校三年生の時に思い知った。
アラタさんの居ない校舎、アラタさんの居ない寮、総じて言えば
『アラタさんが居ない祠堂』
プリクラの一枚でもあれば…心の隙間を少しでも埋めることが出来たのに…
オレは見つめることが出来ない愛しい人を思いながら、忙しい一年を過ごした…。
アラタさんが誰かに浚われないか…
不安を隠すように、嫉妬を鎮めるように、
全神経を階段長と部長という肩書きに向けながら…。
それが
『…あの…もし写真がOKなら…プリクラが欲しいっす』
その一言を受け取ってもらえ、今ここに居る。
使い方がよくわからないから、やってくれと言う。でもオレも…
「へへ、実はオレも中学以来なんで良くわかんないっす!」
そう言うと
「お前…こんなところ出入りしてたのか?」
そんなに驚くこと?
「はい、何回か…」
「結構遊んでたんだな…」
遊んでたって…たかがプリクラだよ…それに…
「遊んでたっていうか…成り行き?」
ほら、中学の部活で遠征に行って勝ったときとかの記念みたいな?
「真行寺…今も成り行きで…って流されてるんじゃないだろうな…」
無いって!だいたい、大学のヤローどもで撮って何が楽しいんだよ!ねぇって!嫌だよあんなむさ苦しい奴等となんて、ゼッテー撮りたくねぇ!
「無い、無いよ無い!信じて!アラタさん!だから、わかんないって言ったじゃん!」
「わかったよ…悪かったな…」
アラタさんはきっと一度もないんだろうな…てことは、オレが初?
やったぁ!アラタさんの初!ここでもいただきました!あ…それはここに含めちゃダメだ…
勿体ない!
と、そんなバカなことを考えながらボタンを押す。
「じゃ…いきますよ…」
「あぁ…お前がリードしてくれるんだろ…『泣き虫彼氏』くん」
「言ったな!後から『無かったことに』なんて言わないでくださいよ!『泣き虫彼女』さん!」
オレたちは『機械のリード』により…
次々と写真を撮った。
でも、『最後だよー!』のアナウンスで行動に出た。
「アラタさん、最後は機械無視で…オレに決めさせて…」
「いいよ…」
「じゃ…失礼します…」
この狭さ、この密着度…アラタさんの香り…
ここに入った時、既視感…じゃなくてあの日を思い出した。
そう、『所有物』扱いの後のフィッティングルーム。
あの淫靡な…バックハグ。
決してそこで何かをするつもりなんかないけど、後ろから伸ばされたその細い腕…
脱がすのではなく、着せているのに艶かしい動き…。
更には耳元で
『いいな…このシャツ…これにしろよ…お前に良く似合ってる…そして、それを着て俺とデートしろ』
あの時、何も被らず素直なアラタさんを感じた。
だから…
オレは了承を得てアラタさんの後ろに回り、
そっとバックハグを。
「これ…手触り、良いですね…ずっと抱きしめたかったんです…」
あの日の言葉と、オレの本音を混ぜ…
アラタさんに落とした。
その細い頸筋に、吐息を滑らすように…
そして、欲情してくれたら…そんな邪な想いも乗せて。