「覚悟っていうと大袈裟かもしれないけど…あのね、託生くんにはこれからどんどん色んなコンクールに出てもらうつもりなんだ。それは、例の留学制度のコンクールに箔をつけるため。そうすることで、優勝を手にする確率が上がるんだ。まぁそんなものが無くても充分な力はあるんだけど、無いより有るに越したことないからね。それでね、ほとんどの時間をバイオリンに費やしてもらいたいんだ。そこで僕は、中郷音響にお願いして環境を用意してもらうことにした。だから…三洲くん真行寺くん、来月から託生くんは君たちとのルームシェアを解約することになる。そうなると、ここにいるみんなは託生くんと直ぐに会うことが出来なくなる…。その覚悟を決めてほしいんだ。どうかな…」

突然の隔離宣言…。
今までのように会えない…。
それは葉山より僕たちの方が辛いんじゃないだろうか…。
一番は三洲…。
次に僕が。

「葉山にはもう伝えてあるんですか?」

三洲が自分たちより葉山に確認が先だろうと言う。

「…まだ言ってない。託生くんは基本一人でも立てる子なんだ。それは、高校の時のサロンコンサートで確信した。今は義一くんに会えないことでみんなに凭れていたかもしれない…。でも赤池くんがさっき言ったように、決意をしたのであれば…もう大丈夫なんだよ。きっと託生くんは、前に進むことしか考えない。でも、優しいから君たちを優先にしてしまう可能性がある…そこを隠してしまいたいんだ。ごめんね、僕、凄く辛いことを言ってるんだと思う…。みんなとの繋がりはきっと何より代えがたいものだと思う。僕が割ってはいることなんかしちゃダメだってわかってる…。それでも託生くんを義一くんの元に渡すためにはこれが一番の近道だと思うんだ。いままで色んなことから託生くんを護ってくれてたのも解ってる。だから、決定事項ではなくて、お願いなんだ…。中郷音響にも保留にしてもらってる。みんなの意見を聞いてから託生くんに話をする。だから…みんなの意見を聞かせてほしい」

これまでずっと人の上に立って、年上の人間すら使っているであろう井上佐智が
僕たちに頭を下げる。
それほどに、葉山の道を確かなものにしたいんだ…そう思った。

「三洲…お前の意見にみんな倣うよ。お前が一番葉山に近かったからな」

僕の言葉に3人が頷く。

「…俺は…急に言われても整理ができない…。今日に今日、返事できないんで…少し時間をもらえますか?」

心の整理ができないから時間がほしいと言う。
そうだよな…。即答できる内容でもない。

「そうだね…ちょっと焦りすぎちゃったかな…。でも、僕の考えは伝わったかな…。しっかり考えて返事を聞かせてね」

その言葉を聞いて僕たちは部屋を後にした。