「葉山くんに、面倒な男がちょっかいをかけてるから困ってるとお友達から相談を受けてね」

佐倉氏が横目で月詠を見る。

「それ、オレのこと?人聞きが悪いですね。オレはただ、タクミが好きなだけですよ。それの何が悪いんですか?同性だから?」

まったくとして、自分はそんな行為をしていないと言い切る。
それでも、葉山からしてみれば迷惑以外のなにものでもない。

「聞いてみますが…月詠さん、なんでぼくに興味を持ったんですか?ぼくなんて、どこにでもいる大学生で…というか、むしろそれ以下だと思うんですが…」

葉山が自己分析して評価を言い、自分が気に入られる意味がわからないと言う。

「タクミは自分を過小評価し過ぎ」

ほんとにこいつは葉山を気に入ってるんだな…。
演技だったわけじゃなかったのか。
そして葉山が好かれるに価する人物だと説明する。

「野沢だって、そこにいる綺麗な男だってタクミを気に入ってるじゃないか。二人ともちゃんと恋人がいるのにさ。それだけタクミは魅力的なんだよ」

「…紅、お前…。この人達に恋人がいるって知ってるってことは、脅迫状もやっぱり…」

野沢と三洲に恋人がいることを知っている。
しかも、同性の…ということを匂わせるような言い方だ。それを知っているということは、写真を撮ったのはやはりこいつなのか。
佐倉さんが月詠に詰め寄る。

「そーだよ。オレが出しました。だってタクミの周り、ガードが固すぎてさ。オレが一番近くにいたいのに、邪魔だらけなんだ」

まるで子供の言い訳だ。
葉山の一番近くにいたいから脅迫状を出しただって?あんなに頭がキレるのに、そんなことで出すものだろうか。

「紅、正直にいいなさい。君のIQでそんな言い訳通用しない」

やはり佐倉さんも疑っている。

「あの、脅迫状というか…ぼくの家に出した手紙も月詠さんなんですか?でも、あれって大学に入学する前のものでしたよね?月詠さんはぼくのこと本当はいつから知っていたんですか?」

そうだ、あの手紙…まるで葉山の生い立ちを知っているかの内容だった。
僕は全て嘘だと思って読んだからどうでもいいものだけど、葉山にとっては心の傷に触れているものだ。その真意を知りたいんだろう…。
それに最初に届いたのはギイが退学した少し後だ。

すると、月詠はそこに触れられたくなかったのか

「あれはオレが考えた訳じゃない。成り行き…。オレは高校生のタクミを知ってる。それも一年の頃から」

は?一年の頃から知ってる?
どういうことだ?

「紅、君は海外に行ってたんだよね?なのに、6年前には日本にいたのかい?それに、ニューヨークで仕事もしてたって聞いたが…」

佐倉さんが月詠に今まで何をしていたのか問いかける。

「ああ、海外に行ったよ。理由はオレの恋愛事情でね。親が…オレは異常者だからって日本から追い出した。ただ、好きになった人が同性だっただけなのに…。守谷先生はちゃんと説明してくれたよ…。でも聞く耳なんかなかった。そして、両思いだと思っていた相手から…思いもよらない手紙をもらったよ。内容はオレのことは気の迷いで、好きだと思ってたのは自分を慕ってくれたから…そう思っただけだって。確かにオレの片思いだったのかもしれない…。その時はまだ中学生だったし、身体を重ねた訳でもない。ただ、初恋を…胸に灯った小さな恋をオレは信じた…信じたんだよ、智哉さん!」



佐倉さんに何故海外に行ったのか、そして自分は同性愛者で両親から迫害されたと…そして、初恋を裏切られた…そう佐倉さんに詰め寄った。