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「彼はね、最近ぼくの練習に付き合ってくれてたんだ…」


そこまで近くなってたのか!
…これは完全に狙ってる?…

「それで?なんで頭を下げてたの?」
一部始終見てたってことを匂わせる。
「それはね、練習に付き合ってもらうのを今日でやめてもらったから…」三洲の言った通り、ちゃんと断ったんだ。
「そうなんだ…で、彼はなんて?」
そんなに知りたいことなの?って顔で見るけど気にしない。
「なんて言われたの?」先を進める。

「…えっと、練習は教授に任せるけど、いつでも相談に乗るからって…」それってまだ繋がってるってことだ。
「なんて返したの?」葉山くんはどう答えたのだろう…
「ぼくの相談なんかより、他の人の話を聞いてあげてくださいって」葉山くんは距離を取ろうとしたんだ。でも…
「だけど、答えないで手を振って帰って行っちゃった」彼はやっぱりキレモノダ。最終的に絶ち切られないよう言葉にせず着地した、そう言うことだ。

「葉山くん、餅は餅屋、音楽も然りだよ。専門家に任せるのが一番だ。僕たちはプロを目指してるんだよ?」
いや、葉山くんの腕前はプロと言える。だから齧っていたってくらいの人に教えを乞うなんてしちゃいけない…。

「…そうだよね…。ぼくは甘えちゃったのかな?」人に甘えることをしない葉山くんが甘えた?信じられない…。俺達に…いや、三洲にすら甘えることをしないのに?

「甘えるほどに仲良くなったの?」
俺は意地悪なんだろうか…。そんなことあって欲しくないと思った…。だからそんな言い方になったのかもしれない。

「…そうじゃないよ…だけど、なんだか懐かしく感じるんだ…何でかな…」遠くを見るような目で思い出を手繰るように左胸の服を握りしめる。

「懐かしい?」整った顔は祠堂で慣れているから容姿で懐かしさを感じた訳ではないだろう。
と言うことは仕草?声?それとも…香りとか?

「なんだろ…言うなれば一年の頃のぼくに対するギイのしゃべり方…かな…」

それって…彼にギイを垣間見た?そうだ三洲は葉山くんがギイと彼を重ねてるって言ってなかったか?
しかも現に俺と距離をとろうとしてる葉山くんに対する会話術?

まさに、一年生の時の状況だ…ただ違うのは葉山くんが扉を開いてるってこと…。あの頃みたいに誰彼構わず、拒否してた時とは違う。確かに不自然な気がする…

「…葉山くん!彼は!」彼の正体を話そうとしたその時に…


「葉山!」


その呼び掛けかたは紛うことなき、ギイだ…。


でもそこに居たのは…俺に視線を向けた、
月詠 紅だった。