『男を惑わせる…』


葉山のトラウマを刺激する言葉…
まさか、あの手紙にそこまでの内容が隠されていたとは…
一体、誰なんだ!そこまで調べあげて葉山を追い詰めるのは!
ギリギリと音がする…
それが自分の歯だと認識するまで時間がかかった…

「葉山、もういい」
これ以上聞かなくても想像がつく…なら言わせないでもいいだろう。そう思って止める…が、

「…ううん…いいんだ…それとも気分が良くないかな、やっぱり…」ほら、また…

「いや、俺は全部受け止めてやるって言っただろ?葉山がいいなら、続けてくれ」
それなら…と話を続ける。

「兄さんはね、中学に入ってからおかしくなったんだ…きっと想像がつくよね、三洲くんなら。そう、6歳離れたぼくの体を兄さんはレイプしたんだ…」

確かに想像はしたさ。だけど葉山は早生まれ…まだ6歳だったはずだ…。
そんな幼子にどうして…しかも可愛がってた弟にする行為じゃない!それに多分葉山はインプリンティングされていたから、逆らうことをしないはずだ…頭が良かったのは本当だな。まさか中1でそれを理解していたのか…それとも本能で感じていたのか…。
さらに淡々と続ける葉山。

「それはね、四年生まで続いた…。さすがにその歳になれば何をされてるのか理解も出来る…だから、ぼくは抵抗だってしたんだ…でも相手はほとんど体が出来上がってる高校生、どんなに足掻いても力じゃ敵わなかった…その度に罵声を浴びせられた…。それこそ、あの手紙に書いてたように。汚らわしい…お前が惑わすんだ…ぼくのせいじゃない…お前がぼくを唆す…感じるお前が悪い…って、だからお前を愛してくれる奴なんか居ない…可哀想な奴だ…って。もうぼくに抵抗するだけの気力なんか残らなかったよ」

幼い頃から凌辱しておいて、感じるなって方が無理だ…。それを自分で植え付けておいて、さも自分は被害者だと言いながら行為に及ぶ…最悪だ!しかし、それだけの年月続けていて何故あの女は気づかない!どれだけ葉山を見てなかったんだ!考えれば考えるほど、あの女の態度に我慢ができなくなる!
震え始めた葉山の手を握らず、トントンと軽く押さえる。ハッと我に返り、俺の存在を改めて思い出す。

「でもね、見つからないなんてあり得ないんだ…ある日、母さんが買い物に出掛けたのを確認した兄さんは、ぼくを布団にこれ幸いと引きずり込んだ…そこに財布を忘れた母さんが戻ってきて見てしまったんだ…」



それで出たあの言葉か…そう思った。
…だがそれより驚く言葉が葉山から出た。