~これは、昨年の今頃、あるラジオで聞いた話です。~
今から17年前、阪神大震災が関西を襲った時の話。
少年は、震災で家にひびが入ってしまったので、避難所で生活をすることになりました。
そこではたくさんの大人たちが、一生懸命にいろいろな人たちのお世話をしていました。
ある日、少年たちの前に、ひとりのおじさんがあらわれました。
おじさんは少年たちに、こういいました。
「おじさんは、『 ワッハッハ星人(せいじん) 』 なんだ」
とまどう避難所の子供たち。
それを見て、おじさんこと ワッハッハ星人 はこう言いました。
「おじさんはワッハッハ星人だから、おじさんに捕まったら 『ワーッハッハッハ!』 って言わなくちゃダメなんだぞ」
そう言うと突然、おじさんは子供たちを追いかけはじめました。
わけもわからず逃げ出す子供たち。
「ほおら、つかまえたぞ。 さぁ、おじさんと一緒にいうんだ。『ワーーハッハッハ!』」
「わー・・・はっは」
『ワーーハッハッハ!』
「わー、はっはっは」
「よし、次!」
そういうと、おじさんは、また次の子供を追いかけ始めました。
避難所の手伝いもせずに、ワッハッハのおじさんは、毎日あらわれては、同じことをくりかえすのでした。
そんなある日のこと。
今日もやってきた ワッハッハのおじさんは、とつぜんこんなことを言い始めました。
「おじさんは、今日はきみたちみんなをワッハッハにする」
「今日みんなをワッハッハにしたら、おじさんは、別の星に行くんだ」
そう言って、また今日も、おいかけっこが始まりました。
でも、家にひびの入ったあの少年は、ほかの子供たちより足に自信があったので、ワッハッハのおじさんにつかまる事はありませんでした。
まわりの子供たちは、ひとり、またひとりと、ワッハッハおじさんにつかまっては、いつものお決まりをくりかえします。
『ワーーハッハッハ!』
「わーーーはっはっはー!」
少年は、自分ひとりだけがつかまらずに、みんなが楽しく ワッハッハ、とやっていることが、だんだんとさみしくなってきてしまいました。
ですが結局、その日のワッハッハは、少年ひとりがつかまる事のないまま、終わってしまいました。
少年は、日も暮れた避難所で、ひとり考えました。
(そうだ) 少年は思いつきました。
(今からワッハッハのおじさんの所にいって、バッタリ会ったふりをしてつかまりに行こう)
(そうしたら僕も、ワッハッハ仲間になれる)
「ちょっと、トイレ行ってくる」
そう言って、少年はひとり、外に出て、ワッハッハおじさんのもとへ向かいました。
少年は、ワッハッハおじさんが夜どこにいるか、なんとなくは知っていました。
少年がその場所へと向かうと、やがて、暗がりにひとりたたずんでいる、ワッハッハおじさんを見つけました。
(どうやって見つかろうかな)
(見つかったら、「あ、ワッハッハ星人だ!」 って言って、にげる。 よし)
少年は後ろから、少しずつ、ワッハッハおじさんのもとへと近寄っていきました。
そろそろおじさんに見つかるかもしれない、その位のところまで近づいたところで、少年は、見てしまいました。
おじさんは、泣いていました。
ひとりで、泣いていました。
誰にも見られないように。
ひとりで、いつまでも泣いていました。
少年は、もうそれ以上、おじさんに見つかろうとはできませんでした。
どうしてあの夜、おじさんが泣いていたのかは、誰にもわかりません。
その後、ワッハッハおじさんがどうなったのかも、よくはわかりません。
ただ、ひとつだけわかっていることは、
すっかり大人になったその少年は、お笑い芸人の道を選んだ、ということです。